漫画の分類は性別や年代によってさまざまです。例えば子ども向けの少年漫画、少女漫画、成人男性向けの青年漫画――などなど。もっとも現在では少年漫画や青年漫画を女性が読むことも多くなっており、この分類はあまり意味をなさなくなっているのですが、一応そういう呼び方自体はまだ残っています。

しかし、読者層の境界が曖昧になっている昨今においても、成人女性向けのジャンル、いわゆる「レディースコミック」に関しては、あまり男性が読むという話は耳にしません。でもそれは、とてももったいないことだと思うのです。こんなに面白い作品の多いジャンルを放っておくなんて!

ということで今回はレディースコミックが充実している電子貸本サイト「Renta!」から、男性でも問題なく楽しめる傑作レディースコミックをご紹介していこうと思います。

『まんがグリム童話 金瓶梅』

まんがグリム童話 金瓶梅

『まんがグリム童話』というタイトルは、ぶんか社から発売されている漫画雑誌名ですので、本来の作品名は「金瓶梅」となります。グリム童話はまったく関係ないので誤解なきようお願いいたします。

さて、「金瓶梅」というタイトルから内容の想像はつかないと思いますが、本作は古代中国を舞台に愛と憎しみが渦巻く大人のためのメルヘン作品。1人の男を手に入れるため6人の女性が競い合うという昼ドラもびっくりのドロドロしたストーリーが展開されます。主人公の金蓮は、美貌と知性を兼ね備えた稀代の悪女。ある出来事がきっかけで町の有力者で大金持ちの西門慶に嫁入りした金蓮を待っていたのは、西門の寵愛を受けるために策謀を凝らす5人の夫人たちとの激しい争いの日々だったのでした――。

原作は中国の明の時代に書かれた全100話からなる長編小説で、明代四大奇書のひとつとされています。薬や道具を使った性描写や同性愛、近親相姦など当時としては過激な内容が多数登場することから何度も発禁処分になった書物であり、本作にもそうした描写は頻繁に登場します。

加えてやや残酷な描写もあるものの(捉え方は個人差あるので何ともいえない部分ですが)、竹崎真実の美しい絵柄で描かれるストーリー展開が面白すぎて、どんどん読み進めてしまうパワーが本作にはあります。原作通りというわけでもなく、ある程度アレンジされていたり、脚色されている話もあり、作者のずば抜けた脚本作りのセンスが感じ取れます。何より主人公の金蓮をはじめとする登場人物がみんな魅力的! 登場人物は多いのですが、それぞれに個性がありキャラが立っているので、飽きることがありません。

最初こそ主人公の悪女ぶりが際立っていますが、読み進めていくうちにだんだん彼女の人間味に触れ、不思議と好きになってくるはず。時にはホロッとくるようないい話もあるなど、単なる昼ドラに留まらないストーリーの幅の広さも本作の魅力です。

『カミング・ホーム』

カミング・ホーム

やりたいことが見つからず、何もかもが中途半端な状況の水原早良、24歳。9年間育ててくれた最愛の祖母を亡くしたばかりで心を閉ざした水原浬、15歳。そんな二人が一つ屋根の下、一緒に暮らすことに――。

レディースコミックでは年上の女性と年下の男性によるラブストーリーが一つのジャンルとして定着しているようですが、本作はラブストーリーというよりも、年の離れた男女が少しずつ心の距離を近づけながらお互いの道を模索する様を描いた青春ドラマと呼べそうです(もちろんラブストーリーでもあるのですが)。

親戚づてで工務店に就職し、日々の仕事に振り回されながらもやりがいや楽しさを見いだしていく早良の姿は、就職活動中の大学生や、就職したばかりで「自分が本当にやりたいことは何なのか」と悩んでいる方にとって大いに共感できることでしょう。全4巻と、無理のない長さでコンパクトにまとめている点も好印象。

仕事、恋愛、進路。誰もが一度は悩み、通る道を、等身大の目線で丁寧に描いた良作です。

『天才調香師 宝条ミカ』

天才調香師 宝条ミカ

人間の語感のうち、もっとも記憶に直結しているのは嗅覚だと言われています。昔懐かしい香りをかいだだけで、もうすっかり忘れていた思い出が一瞬にして蘇ったという経験は誰もがお持ちでしょう。本作は、そんな「香り」をテーマにした物語。

かすかなにおいを嗅ぎわける優れた嗅覚を持つ天才調香師・宝条ミカ。彼女の元には調香の依頼のみならず、香りにまつわるさまざまなトラブル・事件が舞い込んできます。

調香師とはその名の通り、香料を組み合わせて"香り"を作り出す仕事で、香水はもちろんさまざまな業界で活躍する職業のこと。例えば芳香剤や潜在、アロマテラピー、食品の香りづけなど、本作を読めば、いかに広い分野で香りが重要な役割を果たしているかがわかるはず。

香りにまつわる知識や、現代の調香業界事情も勉強できる一粒で何度もおいしい作品です。1話完結の回が多いのも読みやすくていいですね。