大分県の津久見(つくみ)市は、マグロをはじめとした魚介類の宝庫。マグロの遠洋漁業の基地として全国的に知られている、「保戸島(ほとじま)」があるのもこの津久見市だ。当然、市内では水揚げされたばかりの海の幸を楽しむことができるのだが、注目すべきは「丼モノ」。食べ方がちょっと独特なのである。まるでビビンパのように「かき混ぜて」食べるというのだ。
完全予約制! ぶ厚いマグロを豪快にかき混ぜる
今回、取材をしたのは、津久見市にある代表的な2店舗。まず評判の1店舗目からご紹介しよう。「三幸寿司」は、駅の近くにある昭和44年(1969)創業のお寿司屋さんだ。
「津久見まぐろ研究会」の会員でもあるここの名物が、「鉄火丼」(1,050円)である。ぶ厚く切った寿司用のマグロを、4~5分ほどしょうゆにくぐらせ、卵黄と共に丼飯に載せる。この時点でなんとも魅惑的な見かけに見とれそうになってしまうが、このまま上品に食べてはいけないらしい。
三幸寿司の鉄火丼は、すばやくしょうゆをまわしかけた後に、豪快に「かき混ぜる」のである! するとどうなるか? アツアツの炊きたてごはんに卵黄がやわらかくコーティングされ、ひんやりとした漬けマグロとの相性が段違いに高まる。臭みがまったくなく、大変な美味である。
寿司屋ならではのマグロ料理を出したいという店主・矢野徹さんは、工夫を凝らしマグロの鮮度を十分に生かしつつ、父親から受け継いだ味を提供している。なお現在、この「鉄火丼」は予約をしないと食べられないので要注意である。
漁師メシが由来。丼の原点「ひゅうが丼」
次にご紹介したいのは、「全国丼サミット」において、あの道場六三郎をして「これこそが丼の原点」と言われた、津久見市の「ひゅうが丼」だ。
地元に伝わる漁師飯をアレンジしたという「浜茶屋」の「ひゅうが丼」(800円)は、価格は安いが味はピカイチである。海の男の料理らしく熱々のご飯と具材をこちらもかき混ぜて、豪快にかき込むのがポイントだ!
「ひゅうが丼」の起源は、保戸島の漁師が仕事の合間にサッと口にでき、かつ栄養満点の漁師料理である。たれはしょうゆベース。酒、みりんに丁寧にゴマをすり込んで混ぜ合わせたものにねぎなどを加え、温かいご飯にぶっかけて食べる。
そもそも「ひゅうが丼」に使用する魚は、マグロ限定ではないらしい。周辺のレストランや寿司屋で聞くと、使われている魚はブリやサワラ、アジなど実に多彩だ。
新鮮で脂が乗っていれば、なおいいという。刺し身を作った時に余った身の切れ端なども使うらしく、魚を無駄なく利用するという津久見の人びとの真摯(しんし)な姿勢を感じる。津久見に遊びにいく際は、ぜひ、この豪快にかきまぜて食べる「鉄火丼」「ひゅうが丼」にトライしてみてほしい。