コンピューターというハードウェアを活用するために欠かせないのが、OS(Operating System:オペレーティングシステム)の存在です。我々が何げなく使っているWindows OSやOS XだけがOSではありません。世界には栄枯盛衰のごとく消えていったOSや、冒険心をふんだんに持ちながらひのき舞台に上ることなく忘れられてしまったOSが数多く存在します。「世界のOSたち」では、今でもその存在を確認できる世界各国のOSに注目し、その概要を紹介して行きましょう。前回に引き続き、Apple Computerの「Mac OS」を紹介します。
上記は最新の5回分です。それ以前の記事をご覧になる場合は、一覧ページをご参照ください。 |
Macintoshに日本語をもたらした「漢字Talk」
「漢字Talk 1.0」は、Mac System Software 0.7(Systemバージョン 1.0、Finderバージョンは5.2)をベースに日本語化されたMac OSです。日本語フォントはKrugler氏が札幌の企業が購入した関係から「Sapporo」というゴシック体と、「Kyoto」という明朝体を搭載。Mac OSに詳しい方ならご承知のとおり、同OSのフォントには各国の名称が用いられています。画面をご覧になるとわかるように、英語フォントと日本語フォントのバランスが悪く、今では違和感を覚える方もおられるでしょう。もっとも当時から英語環境で日本語を表示させるのは難しく、前述した開発陣の苦労が垣間見えます(図01~03)。
「漢字Talk 2.0」はSystem Software 2.0.1(Systemバージョン 4.1)をベースに、1988年に登場したMacintosh SEと同時期に発表されました。同マシンからADB(Apple Desktop Bus)やSCSIコネクタを備えるようになり、増設FDDやHDDの搭載を可能にしています。そのためOSもHDDや二基のFDDを前提にした設計が施されました。また、ここで従来の「Sapporo」ではなく、「Osaka」という新しいゴシックフォントが加わります。JIS第二水準の漢字が追加され、12/16/24ドットを用意するなど、日本語の表現が充実するようになりました。同フォントは後のMac OS 9まで標準システムフォントとして採用され続けます(図04~06)。
これでMac OSにおける日本語環境は整ったように見えますが、そこには互換性の壁という存在が残されました。System Softwareでは問題なく動作するMacintosh用アプリケーションも漢字Talk上では動作しないケースが発生したのです。そのため、該当するアプリケーションを実行する際は、せっかくの漢字Talkではなく、System SoftwareでMacintoshを起動する場面が多かったとか。この問題を解決するために、後述するSystem Software 6.xの時代は、System Softwareのフォントにパッチをあてて日本語表示を可能する独自版も存在しました。
1989年に登場した「漢字Talk 6.0」以降はSystem Softwareと歩幅を合わせてバージョンアップされるようになりました。同バージョンではMultiFinderやTrueTypeフォントなどをサポートしますが、日本語特有の改良点として日本語PostScriptのサポートや、「漢字Talk 6.0.7」における日本語TrueTypeフォントへの対応は、日本のDTP環境を大幅に強化しました。1992年登場の「漢字Tal 7.1」もOSとしては大幅な強化が施されましたが、日本語に関連する部分と言えば多言語環境のサポートです。
このSystem Softwareと漢字Talkの関係はSystem Software 7.5.3(漢字Talkは7.5.5)が最後となり、1997年2月にリリースされた「Mac OS 7.6」以降はSystem Softwareという呼称は使用されなくなり、日本語専用として生み出された「漢字Talk」というOSも役目を終えたのです(図07)。