位置の計算やジェスチャーの認識も1チップで実現
さて、どういう原理でそもそも動いているかだが、これは純粋に電界の変動を捉えるものである。単に電界を掛けた状態では、電界はPhoto06の様な均一な構造になる。ところがこの電界の中に、人間の体などの導電体が入ってくると、電界はPhoto07の様にゆがみを発生する。GestIC Technologyはこのゆがみを最低4つのレシーバで測定することで、3次元の位置を推定することが出来るという技術である。
Photo06:底面に送信側、上面の両端に受信側の電極を置いた場合の電界の模式図(これと次のPhoto07はMicrochipのWebサイトで公開されている |
Photo07:電界が崩れる理由は、人間の手と電極の間で構成されるコンダクタンスである |
ただMGC3130はトランスミッター×1とレシーバ×5から構成されており、最大5ch分のデータを同時に取得できる。4chあれば原理的には測定可能だが。あとは電極の配置などで精度がどの程度出るかが変わってくる。そこで、必要ならば5ch目のレシーバも同時に利用することで精度の高い測定を可能にするオプションを残しているのだそうだ(Photo08)。ちなみに解像度はマウス並みの150dpiを実現しており、サンプリングレートは200Hzなので、かなり激しい動きでも拾えるとか。またFrequency Hoppingを搭載しており、他の周波数との干渉を検出したらただちに周波数を変えることで、ノイズ耐性を高めているということだった。
Photo08:かなり大きな部分をStorageが占めているが、これはファームウェアなどを納めるFlash ROMで、別に結果をロギングするとかいうわけではないそうだ。パッケージサイズも5mm×5mmと小さいので、そもそもダイサイズがかなり小さく収まっていることが判る |
ここで面白いのは、この位置の計算やジェスチャーの認識も、このMGC3130の中で行えるようになっていることだ。内部構造はPhoto09に示す通りだが、内部に32bit動作のSPU(Signal Processing Unit)が配され、ここで手の位置そのものの計算や、あらかじめ登録されたジェスチャーの認識が行えるようになっている。I2CなりSPIには、この計算や認識を行った結果のみが返される形になるので、ホスト側であれこれ処理をしなくても済むというのがMGC3130の売りの1つになっている。
ところで、「ではMGC3130は何の位置を正確に測定しているのか」というのが次の問題である。Photo07を見ていただければ判るとおり、電界の影響は人差し指以外の場所にも広く及んでいる。この場合、MCG3130が返す位置はどこなのか? という話であるが、結論から言えば「電界的な重心」となる。つまりMCG3130では、ある特定の指のみの動きを認識するということは無理で、あくまで指に繋がっている腕全体を一塊として、それ全体の重心位置を測定することになる。結果、例えば最近のタッチパネルで広く使われているピンチズーム的なジェスチャーは原理的に認識出来ない。MGC3130が標準でサポートしているジェスチャーはPhoto10に示す通りで、比較的大きな動きを伴う、片手のみのジェスチャーである(Photo11)。
「片手では無理にしても、せめて両手でピンチ動作は出来ないのか?」と確認したところ、「MCG3130はI2C経由で複数繋ぐことが出来るから、例えば2つ用意して右手と左手、それぞれ別のMCG3130でジェスチャーを認識させるようにすれば可能かもしれないけど、実際には電界の影響があるからどこまで可能かわからない」という返事であった。また最近の静電容量式タッチセンサほどではないにせよ、完全に電気的に絶縁された状態で腕を振っても認識されない訳で、素手あるいは薄い手袋をしている程度なら操作できる、程度に考えておいたほうが良いだろう。
Microchipの戦略は置き換えではなく新たなマーケットの創出
ここから判るとおり、MCG3130では既存のタッチパネル、あるいはKinectの様な画像認識ベースのジェスチャー認識のシステムの置き換えは不可能である。これはMicrochipもよく認識しており、なのでむしろ新しいマーケットの創造を狙っている。MicrochipによるInitial Marketの例はこんな感じである(Photo12)。これにはもう少し説明が必要だろう。
まずWindowsであるが、スワイプを行うことでForward/Backwardを指定するといった、特定の用途向けである。ゲームコントローラもあるが、Wii並みの操作性は無理で、もっと簡単な動きに絞った形を想定しているという話であった。むしろ、民生機器機器向けの用途を色々想定しているようだった。Microchip自身がコンセプトとして挙げているのがGesture RemoteとGesture Cubeで、それぞれのサイトにコンセプトムービーがおかれているので参考にしていただきたい。これ以外の用途として、「例えば照明のスイッチとかを左右のスワイプでOn/Offするといった事も可能だ。また医療向けとしても有望だと考えている。パネルに触らずに操作できるから、感染などの影響を抑えることができるからだ」との事であった。
開発環境としては、すでに「Sabrewing MGC3130 Single Zone Evaluation Kit」が出荷開始となっている(Microchip Directではまだ)(Photo13)。この電極ボードは7inchと5inchのTabletを想定している関係で、かなり大きなものとなっている(Photo14)が、問題はこれをユーザーの機器にどう組み込むかというあたりであろう。今のところ設計ガイドラインなどはないようで、「そのあたりは顧客の設計による」との話であった。
Photo13:AUREA GUIは先程Photo11で出てきたもの。MGC3130自身はSabrewing Eval kitの上に実装されている |
Photo14:外側の電極が7inch、内側の電極が5inchにそれぞれ対応しているとか。ちなみに、ちなみにこの電極のサイズも無尽蔵に大きく出来るわけではなく、最大で20cm×20cmの中に全体が納まる様にする必要があるとか |
MicrochipとしてはこのMGC3130を、既存のmTouchシリーズなどと並ぶ、センサポートフォリオの1つと位置づけているとの事。ちなみに量産開始は2012年12月、本格量産に入るのは2013年4月の予定ということで、本格量産に入るまでにどれだけDesing Winを獲得できるかがちょっと興味深い製品であった。