カゴを地面に置けば、すぐに「開店」できる
湿度が高く暑い気候のせいか、それとも国民性か、ベトナムでは路上でくつろいでいる人たちをよく見かける。そのため、食事や軽食、あるいは集まってのおしゃべりなどに利用される店舗とは言えないような露店が数多くある。旅の途中ではいくつもの憩いのシーンに出会った。
世界遺産の街ホイアンは、かつては日本人町もあったという美しい街並みが続いている。多くの観光客がそぞろ歩くその脇では、「お茶」して過ごす人たちの姿や、手書きの看板を出しただけの店でプラスチックの低い椅子に腰かけて軽食を食べる人々がいる。トゥボン川沿いには、カゴ2つとたらいを並べただけの小さな「店」が開店していた。チェー(ベトナム風ぜんざい)を売っている。グラスに黒や白の寒天を入れ、マンゴーのシロップを注ぐと出来上がりだ。女の子たちがグラスを手におしゃべりに興じていた。
フエにあるドンバ市場では、野菜や魚・肉を売る店がずらりと並ぶ。中には、蓮の実やハーブなどの専門店もある。イートインとして、フエ名物ブン・ボー・フエ(スパイシーな牛肉スープの米麺)などローカルフードを供する店も多い。
迷路のように道が入り組んだ建物の内部を歩いていると、向こうから小さなバケツを持った女性が歩いてきた。買い物客に呼び止められると、バケツを地面に置いただけで、「開店」する。バケツに置かれたザルにはいっぱいにバイン・ミー(ベトナム風サンドイッチ)の材料が盛られている。手のひらより少し大きめのバゲットにバターを塗り、ミントの葉やパクチーの葉と薫製肉を挟む。オプションで目玉焼きやチーズも入れてくれるらしい。ひっきりなしに注文する人が現れ、かなりの人気だ。
カフェに流れる独特の時間
フエ郊外の街ドンホイはベトナム戦争中、米軍の爆撃を受け、その傷跡を残す場所もある。ドンホイ空港近くのカフェに入ってベトナムコーヒーを注文すると、コンデンスミルクが入った小さなグラスにアルミ製のフィルターがのせられてきた。コーヒーを落とすのに5分ほど時間がかかるが、現地の人たちのように通りを行く車を眺めながら待つ。少し湿った空気の中で、行きかう車やバイクのスピードや喧騒とは対照的に穏やかでゆっくりとした時間が流れていく。ベトナムの空気感を味わうなら、まずこの椅子に座ってみるといいだろう。現地の人々の目線でベトナムの空気を体感できるはずだ。