養老天命反転地は、現代美術家の荒川修作氏と、彼のパートナーで詩人のマドリン・ギンズ氏が構想したテーマパークだ。いや、むしろ“五感で体感する一つの作品”と言ったほうがしっくりくる。なんせここは、コンセプトを説明するのが難しい、「百聞は一見にしかず」な不思議空間なのだ。
ただの迷路ではない。平衡感覚のおかしくなる仕掛けがいっぱい
実際に足を踏み入れてみよう。入園するとまず「昆虫山脈」という岩場がそびえていて、なぜか頂上には手こぎのポンプが設置されている。次に出現するのは、入り組んだ迷路のような「極限で似るものの家」。といってもただの迷路ではなく、遠近法を無視した仕掛けがいっぱい。そのため、まずここで平衡感覚がおかしくなる。
さらに足を進めると一面に広大な園地が広がる。面積は実に1万8,000平方メートルもあるとのことだが、平面らしい平面がないことに気付く。園内の各ゾーンには「白昼の混乱地帯」「陥入幕の径」など、意味不明の言葉が付けられている。
園内全ての地面がゆるやかな曲線を描いていて、どこを見てもぐにゃぐにゃだ。ゾーンの一つひとつを巡っていくと、そのうち自分がどこにいるのか分からなくなってくるのだ。
この不思議な感覚、以前もどこかで味わった気が……。そうだ、ダリだ。ダリのあの溶けたようなシュールレアリスムの世界だ! 作者がダリを意識したか知らないが、その中をさまよう筆者も、この作品に取り込まれたということか……。公園だからと甘く見るなかれ! ここではハイヒールなどご法度だ。ゴム底靴で歩きやすい服装でないと、制覇できない。
ちなみにスニーカーとヘルメットの 貸し出しもあるから、軽いアスレチック感覚で行った方がいい。彼女にイイとこ見せようと思っているお兄さんは、彼女より先にバテないように気をつけよう。
あの宮崎駿も大好きなテーマパークが「養老天命反転地」なのだ
実はここ、かの宮崎駿監督も大好きなスポットとしても知られている。確かにこの“言葉では説明できない世界観”は、彼の作品世界にも通じるものがあるかもしれない。
宮崎監督が荒川氏に会った時、建設時のエピソードを尋ねたというのだが、その話が実に面白い。なんと、設計図を見せたらとても養老町長がウンと言いそうにないので、工事現場で「ここをもう少し削ってよ」的な誘導で、だましだまし作ってしまったというのだ。僕が養老町長だったら心臓まひを起こすぞ!
ともあれ、この名鉄の支線(養老線)しか通らない岐阜の田舎町に、なぜこんな不思議な空間ができたのか、今もって分からない。
現実歪曲(わいきょく)空間にぼうぜんとしながら出口を抜けた筆者を待っていたのは、地元産のブランド豚を使った豚汁の振るまいサービスだった。笑顔で豚汁を配るおばちゃんの姿に、リアルな岐阜県の現実に引き戻された。まぎれもなくここは、不思議なテーマパークではなく、岐阜の養老町だったのだ。
●information
養老天命反転地
岐阜県養老郡養老町高林1298-2