「トカラ列島」って知ってる? そう聞くと、多くの若者が「樺太(からふと)の近く?」「北海道より上?」「北方領土のひとつでしょ?」などと、とんでもないアンサーが返ってくる。最後の秘境と呼ばれた7つの島「トカラ列島」は、鹿児島県は屋久島の、さらに南にある列島なのである。
島民数わずか120名。半野生のトカラウマに出会う
ここへたどり着くには、3日に1度、鹿児島港から東シナ海を南下するフェリーだけが頼りだ。海が荒れれば当然フェリーは止まり、旅行者が1、2週間足止めを食らうこともザラだ。今回は私、清田進が、トカラ列島のなかでも最多といわれる120人の暮らす中之島に、愛息と2人で上陸した。
島には国内に8種現存する在来馬の一種で、やわらかいブラウンの毛並みをもち、小型で従順な性質が特徴のトカラウマ21頭が、半ば野生の状態で放牧されている。
深夜に鹿児島港をたったフェリーは、翌朝午前7時に中之島港に入った。活火山、御岳(おんたけ)が明けたばかりの空に向けて噴煙を吐いている。着岸のためうなるスクリューが巻き上げるサンゴのくずは、港を白く染めていく。鮮烈な景観のお出迎えで眠気も吹き飛ぶ。
この日世話になる大喜旅館へ着くと、まずは朝食を頂いた。コンビニはもちろん、店というものがないトカラの旅では、3食すべてが宿頼り。驚いたことに、上陸一食目となる朝食から、いきなり分厚いマグロの刺し身が出てきた。
繰り返すが、これは夕食ではない、朝食である。この島をたつまでに5食をたいらげたが、毎度、イセエビ、アワビ、タイ、カツオなど海の幸が卓上をぜいたくに飾ってくれた。しかも、「魚みそ」「青パパイア」なんていう珍味まであるのだ。
午後。いよいよトカラウマの放牧地・高尾牧場へ出発。たどり着くと、そのダイナミックな景観に息を飲んだ。到底ここが日本とは思えないような360度の大パノラマである。トカラ馬たちは御岳の裾野(すその)に広がる放牧地の斜面を、茶褐色の毛並みを光らせながら群れで駆けていた。
明治時代に喜界島(きかいじま)からやってきた、1頭の馬の末裔(まつえい)だというこのトカラウマ。一時、絶滅寸前まで追い込まれたが、地元の皆さんの努力でようやく21頭まで数を取り戻したのだ。馬と戯れ広大な牧草地で日が暮れるまで、男ふたり遊んでくたくたになった後、近くの村営の温泉を訪れた。
24時間開放された天然温泉
トカラ列島は霧島・屋久火山帯に属し、いたる所に温泉が自噴する。筆者と息子が訪れた中之島の村営温泉も、24時間使える上に無料なのである。つまり、人の少ない時間帯だと、完全なる無料貸し切り天然温泉というわけだ。
もはや秘境といってもよいこの「トカラ列島」。男なら、人生一度くらいは旅しておくことをオススメする。満点の星空と豊かな海の幸、そして平原を駆けぬけるトカラウマの姿の美しさをぜひ、心ゆくまで味わってほしい。
●information
鹿児島県鹿児島郡十島村