11月16日、ダイソンが提携している慈善団体・ジェームズ ダイソン 財団は、同財団が主催する国際デザインコンペ「ジェームズ ダイソン アワード 2012」(James Dyson Award、以下JDA)の日本国内優秀作品の表彰式を開催した。
JDAは、次世代のデザインエンジニアの支援・育成を目的に、毎年開催されている。今年のテーマは、「日常の問題を解決するさまざまなアイデア」。デザイン、プロダクトデザイン、エンジニアリングを専攻している学生、または卒業後4年以内の社会人を対象に、世界18カ国で同時開催された。
デザインの意義を再確認できるコンペ
日本国内の審査においては、プロダクトデザイナーの柴田文江氏、ノンフィクション作家であり、獨協大学 特任教授の山根一眞氏の2名による選考が行われた。
20代のときにデザインコンペに参加し、デザイナーとしてのキャリアをスタートさせた柴田氏はJDAについて、デザインコンペには企業が商品化を目論むものが多い中、JDAはアイデア自体を育てていくことが特徴だと語った。
また、「本来、デザインとは生きる知恵ですから、さまざまなところに役割を果たしていかなければいけないし、もっと強い力を持っているものです」と柴田氏。現在日本では、「デザイン」が表層的にとらえられていることに言及し、今回の審査では、デザインの役割を果たしているかどうかを評価のポイントにしたという。
日本の「ものづくり」に携わる人々を多数取材してきた山根氏は、「日本はいま、物と生活の豊かさがいきわたった状態であり、これから何をするべきかメーカーのトップは戸惑っているのではないか」と語った。
しかしながら、「環境問題や高齢者社会など、さまざまな問題を抱えており、それらを解決する方法や技術、デザインはこれから」と山根氏。今回の審査では、これらの問題を解決できるような、次の時代の息吹が感じられるかがポイントになったという。
今回、準国際審査Top50に日本から2作品が入賞したが、山根氏は「来年は世界ナンバーワンになってほしい」と参加者を激励した。
盲導犬ユーザー目線で開発された機構デザイン
表彰式の前に、日本国内優秀賞を受賞した作品のプレゼンテーションが行われた。
国内最優秀賞に選ばれたのは、石井聖己さんによる盲導犬ユーザーのためのプロダクトブランド「LATI~design for guide dogs and blinds~」。「犬にも人にも優しい」をコンセプトに開発し、人体に負荷が少なく、かつ盲導犬へのストレスを軽減する設計となっている。
石井さんは京都市内のバスで盲導犬と出会い、道具に違和感を覚え、本当に使いやすいのか疑問に思ったそうだ。また、関西盲導犬協会と1年にわたり対話することで、道具が半世紀近く変わっていないこと、盲導犬ユーザーが歩きやすい環境が整備されていないこと、盲導犬ユーザーへの認知・理解度の低さといった問題点が浮かび上がったという。
そこで石井さんは、ハンドルの形状やハーネスの素材を見直し、手首や肩のねじれを解消した。同時に、盲導犬への着脱のしやすさと軽量化も実現。また、盲導犬ユーザーが気にしているという被毛の拡散を防ぐために、ハーネスと一体化したスーツも開発している。
さらに、アドバンスモデルはICTやセンサー技術を活用し、スマートフォンとの連携による新しいナビゲーションシステムや、超音波技術によるハンディタイプの凸凹検知ソナーとハーネスの組み合わせを提案。盲導犬ユーザーの自立航法を可能とし、致命的な危険に陥らないようにサポートするアイデアを提案している。
「スーツが黒いのは意味があるんですよ」と石井さん。白杖やハーネスはすべて「白」であるが、ユーザーは汚れやすいと思っており、不満を持つ人も多い。今回、黒いものを作ることで、支給品以外に選択肢ができることは社会的な意義があるという。
石井さんは受賞の喜びと同時に、身が引き締まる思いだと述べ、今後はファンドを立ち上げてさらに試作・検証を進めたいと語った。
遊び心あふれるガジェットや、災害にも役立つアイデアも受賞
2位に選ばれたのは、勝本雄一朗さんの「ニンジャトラック」だ。デジタルメディアのハードが柔らかくなったら、どのようなものが生み出せるかという疑問から生み出したという。
「これは建前で、本当は蛇腹剣(剣としての形状と、刃の部分を蛇腹状に分割した鞭(むち)状に変形させられる架空の武器)を作りたかった」と勝本さん。
縦横に蝶番で連結されたシンプルな構造体ながら、ベルト状態では自由に折り曲がり、さまざまな形を作ることができる。これを折り込むと、まるで棒のように固くなるので、スイッチひとつで鞭から剣へ変わる、ゲームのコントローラーになるという。
また、形状と動作に応じて音色が変化する楽器にもなるとのこと。フラットな状態ではリコーダーになり、これを折り曲げることでサックスの音色を奏でることができる。さらに、棒状にすればドラムスティック、輪にすればベルになり、これを回すとハープになるなど、デモンストレーションの映像が披露され、会場を沸かせた。
3位には、Frederick Phuaさんの「Water Support Bottle」が選ばれた。このボトルにはフィルターが内蔵されており、アウトドアなど安全な水が飲めない状況にあっても清潔な水を飲むことができる。
ボトルのホルダーは、手首や足首のケガに対応するサポーターとしても使用可能。さらに、クーリングジェルがついているので、熱射病や腫れた傷口を冷やすこともできるという。
デザインによって社会貢献できるメッセージ性が評価される
表彰式では、最優秀賞の石井さんには賞状および賞金1,000ポンド(約12.4万円:受賞時の為替相場に応じて換算)が贈られた。
プレゼンターの山根氏は、日本聴導犬協会の応援団長を務めているという。「盲導犬だけではなく、聴導犬や介助犬を含む補助犬ユーザーのための製品を作ってほしい」と山根氏。また、このハーネスは犬のしつけ訓練用にもなり、子どもよりもペットのほうが多いといわれる日本において、大きなマーケットが待っていると激励した。
2位の勝本さんと3位のFrederickさんには、賞状およびダイソン製品を贈呈。なお、勝本さんは5位にも昆虫や小動物を追いかけるような楽しみを与えてくれる、手のひらサイズのミニカー「キャタピー」が入賞しており、ダブル受賞となった。
国内最優秀賞を受賞した石井さんは、賞金の使い道について「おそらく試作品の費用になるのでは?」と語った。スーツの原価だけでも3万~4万円ほどかかり、実証データをとるにも費用が必要とのこと。
石井さんは現在も、専門家や盲導犬ユーザー、生産者とプロジェクトチームを組み、さらに望ましいデザインを実現する活動を続けているという。「CSR活動の一環として一緒に取り組んでくれるパートナー企業を探したい」と希望を語った。