光発電エコ・ドライブ、世界多局受信電波時計、高度な技術を要するフルチタニウムボディ。革新とともに歩むシチズンのビジネス・クロノグラフ「ATTESA」(アテッサ)の25周年アニバーサリーモデルから、いよいよ第3弾が登場する。
今回のデザインテーマは「月光」。25周年記念モデルとしての統一感を踏まえながらも、単なるバリエーションの違いにとどまらないデザインに込められた"ATTESAイズム"とは……? シリーズを手がけるデザイナー、井塚崇吏氏に話を聞いた。
あえて押し出しを控え、魅せるデザインに
「ATTESA」25周年記念モデルにはデザインテーマがあり、今年5月発売の限定版第1弾が「閃光」、6月発売の第2弾が「光線」だった。第3弾に課せられた「月光」というテーマを、井塚氏はどのようにそしゃくし、形にしたのだろうか?
「エコ・ドライブのようなソーラーウォッチには、『光を受ける』というイメージがありますよね。そこでこれまでの25周年記念モデルでは、光を受けるだけでなく、『時計がそれをギラリとはね返して輝く(光を発する)』という要素をデザインの主柱にすえました。光の強さやインパクトを強調したんですね。一方、今回の第3弾は『月光』がテーマ。光という点では同じですが、これまでと違うのは、月はそれ自身に光る要素はなく、太陽の光を受けて明るく見える『間接光』だということです。ギラリと光る強さでなく、ぼんやりと奥ゆかしく光る落ち着いた感じの美しい光。日本的なわびさびとでも言いますか……」(井塚氏)
第3弾では、ワニ革を使用した革バンドモデルと、オールチタン製のメタルバンドモデルが用意されている。この2モデルはバンドが違うだけでなく、ダイヤルのデザインも異なる。革バンドモデルは、黒と赤の中間色ともダークなワインレッドとも見える、複雑妙味なカラーが織りなすグラデーションのダイヤルデザインだ。
「月光の持つ穏やかさを、コントラストではなくグラデーションで表現しています。赤味がかったダイヤル色は、『月光のさす夜に赤いものを見たらこんな赤になるんじゃないだろうか?』という色をイメージしました。赤にも黒にも紫にも見える、そんなあいまいで微妙な色をグラデーションさせることで、時間の経過も表しています。時計の表情もぐっと深みを増していると思います」(井塚氏)
ダイヤルの周囲に配したマットなシルバーリングも、月にかかるかさを想起させる。高級時計としては珍しいデザイン処理だ。
「リングは、文字板の中央から外側に向かってダークグレー、ライトグレーという色づかいになっています。月光の間接光の淡い光のイメージです。普通、このような個所にはキラリと光るメタルリングを使うことが多いのですが、今回は奥ゆかしさを込めてマットな処理としました。リングの幅も細めにしています」(井塚氏)
これらの「意図的に押し出しを控えたデザイン処理」が、ワニ革ベルトでも嫌味にならない、落ち着いた印象を与えているといえるだろう。「ATTESA」シリーズに共通するデザインコンセプトは「スポーティービジネス」とのことだが、この革ベルトモデルは、「ビジネス」要素を強く印象づけるモデルなったと感じる。
「シチズンでは普通、革モデルも三つ折れバックルを採用していますが、今回の革モデルはあえて尾錠にしました。尾錠の形にケースデザインのルールを適用したんですよ。もちろんこの尾錠もチタン製で、このためだけに設計しています。記念モデルならではのぜいたくな設計ですね。実を言うと、純チタンは皆さんが思っているよりやわらかい素材なので、エッジの効いた小さなパーツを作るのは難易度が高いんです。これひとつとっても、かなり手間ひまがかかっています」(井塚氏)
ワニ革バンドモデルのダイヤルは複雑な色合いが織りなすグラデーションが美しい。デイト表示の隣には、ダイレクトフライトで操作する都市名のディスク針が配されている |
このモデルのためだけに設計・製造されたチタン製の尾錠。このサイズとは思えない精度の高さ! |
これぞ「しっぽの先まであんこ」ならぬ「バンドの先まで"ATTESAイズム"」! 余談だが、「ATTESA」の革ベルトモデルは非常に珍しく、その点でも注目に値するモデルだ。
記念モデルだからこそ、いままでの「ATTESA」を超えたい
一方、メタルバンドモデルは、ダイヤルにパターンが描かれているのがわかるだろう。中心付近の線は太く、外側へ行くにしたがって線が細くなっている。
「月光に照らされた水面をイメージしています。水面の反射が光の加減でときおり見える。光の強さだけでなく、やわらかい光でも形を見せていきたかったんです。いわば『面における立体感』の演出。これを面の仕上げの差で描いています」(井塚氏)
見方によっては月に照らされた竹やぶの陰影のようにも見える。時計のダイヤルという小さな"箱庭"に、いかに世界観を与えるか? それがウォッチデザイナーの腕の見せ所だと井塚氏。それだけに、今回のような「あえて押し出さないデザイン」に悩んだとも。
「金閣寺と銀閣寺みたいなものですよね。たしかに金閣寺のほうが目を引くけれど、大人になると銀閣の良さがわかってくるじゃないですか。とくに日本人は、あまりにキラキラなものより、あえて一歩引いたデザインを受け入れてくれるんじゃないか。そこに気づいたとき、方向性が見えました。むしろもっと余裕を持って、受けた光をどう見せていこうかというところに発展して行ったんです」(井塚氏)
やわらかな深みを持つ、25周年記念モデル第3弾のダイヤルデザイン。それは結果として、時計としての視認性を大きく向上させる効果を生んでいるようにも思える。ちなみに時字は、第1弾ではローマンインデックス、第2弾ではバーインデックスだった。第3弾では12時位置のみローマンインデックス、他はバーインデックスとなった。
「デザイン的にも視認性としても、12時位置には象徴的なアクセントが欲しかった。だから第3弾では、12時位置をちょっと大きめのローマンにしています。バーインデックスも断面が台形になるインゴット形状のパーツを使い、上面に夜光(塗料)を印刷しています。そのためにより細く、シャープに見える。時字を大きく見せながら、細身で繊細な雰囲気にもしたかったんですよ。針についても同じで、黒っぽい文字板に黒い針を使っています。こうして針そのものの輪郭をブラックアウトさせて、中央に夜光をプリントすることでシャープさを出しています」(井塚氏)
シャープかつ立体感あふれるバーインデックス。針は、インダイヤルのそれに至るまで精緻な着色と印刷が施されている |
99%クラリティ・コーティングが施されたデュアル球面サファイアガラスが、高い視認性を確保する |
革バンドモデルとメタルバンドモデルでは、ケースの仕上げも異なっている。革バンドモデルはキラリと輝くミラー仕上げ、メタルバンドモデルはクローム調のブラック仕上げだ。どちらもシチズン独自の表面硬化技術「デュラテクトDLC(Diamond Like Carbon)」を使用したチタン素材を採用。非常に耐傷性に優れ、純チタニウムに対して5倍以上の強さを持つという。チタンというきわめて加工が難しい素材にあって、表面のツヤ感を出せるのが大きな特徴。立体構造への付着力も高く、IP(Ion Plating)処理された皮膜のように、傷ついた部分から金属の地が見えてしまうこともなく、安心して着用できる。
「ワニ革モデルのケースは、ツノ脚のシルエットをキラリときれいに出したかったんです。そこでミラー仕上げにしたのですが、チタンは磨けばダレるし、面も出しにくい。ミラー仕上げは技術屋さんが嫌がるんですよね……。でも、ただバフで磨いただけだと精緻なエッジが出ない。『25周年の限定だから』と説得して、ようやく通してもらいました。おかげで十分満足のいく形が出ていると思います。メタルモデルのブラックは、月光の周囲の闇を表現しています。完全な漆黒ではなく表情のある闇を意識して、パーツごとに微妙に仕上げを変えたり、ヘアラインの向きに気を配ったりしていますね」(井塚氏)
バンドはケース直結ではなく、チタンの1コマがつなぐという凝ったデザイン! |
デュラテクトDLCの硬化処理と複雑な表面仕上げにより、豊かな表情を見せるチタン製メタルバンド |
メタルバンドモデルは好評のジャイロフィット機構を採用。ツノ脚とメタルバンドを円柱状のパーツがつながることで、腕へのフィット感を高めている |
切れそうにシャープなベゼルやツノ脚のエッジ、撮影する筆者まで写り込んでしまう美しいミラー仕上げに注目! |
袖口から手首までのスマートさと上品さ、誠実さ、見やすさへの配慮が明確に伝わる。それが「ATTESA」のデザインだ |
今回発表されたモデルの裏ぶたには、ラグジュアリー感漂うサファイアガラス製エンブレムが貼り付けられている |
「記念モデルだからこそ、技術もデザインもいままでの『ATTESA』を超える挑戦をしたかった」と語る井塚氏。第1弾・第2弾同様、いやそれ以上の高みをめざした希少なアニバーサリーウォッチで、あなたの時間をぜいたくに刻んでみてはいかがだろうか? なお、ワニ革モデルが限定1,500本で17万8,500円、メタルバンドのモデルが限定2,000本で18万9,000円。ともに11月22日発売予定だ。