富士通は13日、同社ノートPCの生産拠点である島根富士通にて、メディア向けの工場見学会を開催した。実際のライン見学の模様はすでにレポート記事を掲載させていただいているが、追補編として富士通 執行役員の齋藤邦彰氏による同社のパソコンビジネスについての概要紹介、そして島根富士通 代表取締役社長の宇佐美隆一氏が島根富士通の取り組みについての説明をご紹介しよう。
「【レポート】Windows 8時代はOSセットアップも工程内に - 島根富士通、Windows 8搭載ノートPC製造工場を公開:製造ライン見学編」も合わせてお読みください。
PCの商品化にあたって考えるのは「PCでどんなことができるか」
齋藤氏は、同社PCの商品化について「PCでどんなことができるか」という言葉を強調した。
「今まではCPUやHDD容量など、パフォーマンスを重視していたが、『PCで何ができるか』にフォーカスして商品を作っている。端末性能以外の重要なミッションに邁進していく」と説明。
同社が2012年秋冬モデルとして発表した女性向けUltrabook「Floral Kiss」は「これも、持つ"こと"に喜びを感じるPC。こうした商品をワールドワイドに広げていきたい」(斎藤氏)という。
それが同社が提案するクラウドサービス「MyCloud」につながるとし、各端末に散らばっている写真や動画の自動管理や、リモートでの家電制御などを例に挙げ「『MyCloud』はPCでできることを突き詰めていったうえでのコンセプト。より楽しく、手間のかからない時間の過ごし方を提案する」とサービスの狙いを説明した。
また、"PCでできること"を支えるのは「高品位なモノ」であるとし、高品質なものづくりの例として、同社初のUltrabook「LIFEBOOK UH」シリーズや、10月19日に発表したWindows 8搭載タブレット「ARROWS Tab Wi-Fi」を挙げた。
「(LIFEBOOK UHシリーズの)独自の超圧縮クロスグリッド構造、これはパーツの開発を製造部門と一体となって行なったからできたもの。これを中国で実現しろと言われたら絶対にできない。ARROWS Tab Wi-Fiは携帯電話で培った独自の防水技術を薄型筐体に施した。X86アーキテクチャの採用で、(Windows 7の)資産も運用できる」(齋藤氏)と、ノートPCの基板から製品化までを一貫して行う、"メイド・イン・ジャパン"のコンセプトに自信を見せる。
「高品質の製品がなぜできるのか。富士通のPCは、国内で企画、開発、製造、サポートまで一貫してつながっており、このインフラを我々はスーパーバリューチェーンと呼んでいる。例えば大震災でデスクトップPCを製造する富士通アイソテック(宮城県仙台市)と、わずか7日間で代替製造ラインが完成した。現場社員が自発的に問題を解決する『現場力』が、日本が世界に誇る『高品質なものづくり』技術を生み出す」(斎藤氏)。
「ブランド力が強いと、グローバルで品質が良いと評判になるメリットがある。アジアやヨーロッパ、欧州で他社よりも高く売れる。(PCメーカーは)中国での分業が進んでいるが、賃金や製造ライン改善の面で、年々、中国との競争は有利になっている。あえて中国に出すことは考えていない」(斎藤氏)。
PC市場の概況については「市場規模は伸びているが平均単価の下落が進んでいる。これは単なる市場原理のように見えるが、タブレット系のガジェットの販売台数が伸びているし、これからも伸びると見込んでいる」と説明。タブレット分野への注力にも含みを持たせた。
出雲ブランドがスタート1年、「富士通生産方式」の確立を目指す
一方、島根富士通 代表取締役社長の宇佐美氏は、2012年度における同社の活動施策を紹介した。
宇佐美氏は、国内生産の強みを強調した斎藤氏の話を受け、企画から工程設計、配送物流までをITC技術で一貫してつなぐ方式を「富士通生産方式」として紹介。活動の軸としてグループ全体で推進するとした。
「富士通生産方式」の確立に向け、製造工程における2012年度の取り組みを、4つのキーワードにまとめた。1つは「プロセスのコンカレント化」で、これは企画・開発から製造までの工程をいかに効率よく短縮できるかというもの。
これにより、コスト削減や期間短縮、品質の向上が可能とし、工程の中で試作機評価のプロセスを、従来の実機中心の開発から、3Dによる仮想シミュレーション・仮想ラインを使う新プロセスの採用を目指す。
2つ目は「平準化プロセスの確立」。余分在庫を持たず、ユーザーからくるオーダーもある程度まとめて生産するという取り組みを行なっているという。日々の生産量に加え、1日に製造する機種の物量をいかに均等化できるかに注力し、在庫を抱えるリスクや品質の改善につなげるという。
このほか、「自動化・ロボット化の推進」や、スタッフの意識向上という「自律改善」を挙げた。製造ラインで、目視検査や簡単な貼りものなどの単純な工程にロボットの配備を進め、作業の効率化を図る。また、スタッフの育成にも力を入れ、特に課題の共有や改善施策の実行を重視するとした。「品質の向上とコストダウンが見込め、これで工場の価値が決まる」(宇佐美氏)。
活動成果として、自動化ではPCの製品名や注意書きラベルのレーザー印字化、自律改善では、同社がOEMのため展開する中国の製造工場と比べて5~6倍という高い定着率や、ノウハウの蓄積を強みとした。
「出雲ブランドを世に出してちょうど一周年くらい。富士通が国内生産をしていることを知らないユーザーにも、(国内生産をしている)出雲モデルや伊達モデルをわかって頂けた。出雲市が市のイメージアップに貢献する商品を認定する「出雲ブランド」の第一号にも認定された。今後も新たな価値を提供していく」と活動への想いを語った。