最近の薄型テレビでは、デザイン性の追求により、狭額スタイルが主流となってきている。フレーム部分が狭くなれば、それだけスピーカーキャビネットに割り当てられる容積は少なくなる。テレビを買い換えて画質はよくなったが、音質に関していえば、以前の方がよかったというケースも少なくはないようだ。
薄型テレビの音質を改善するには、サラウンドシステムを導入するという方法もあるが、そこまで大袈裟というか手間の掛かることはしたくないというケースも多いだろう。去る9月にボーズが発売した「Bose Solo TV sound system」(以下Bose Solo TV)は、そういった、手軽にテレビの音質を改善したいというニーズに応える製品だ。同社のオンラインストアでの販売価格は42,000円となっている。
Bose Solo TVのコンセプトは「薄型テレビをより良いサウンドで楽しむ台座タイプのテレビ用ワンスピーカーシステム」。これまでボーズがリリースしてきたテレビ用のサウンドシステムは、サラウンド再生をメインの目的としたものばかりだった。しかし、Bose Solo TVは、同社のコンセプトによれば、テレビの音を良くするためのスピーカーでしかない。
Bose Solo TVの上に薄型テレビを置いてみると、デザイン的には小型テレビとの相性が良いように思える。写真は、20V型のテレビと組み合わせた例だが、幅はほぼピッタリだ。なお、ここで設置しているテレビは少々前のモデルなので、最近の狭額タイプのテレビならば、23V型前後がジャストサイズになるのではないだろうか。なお、Bose Solo TVの設置の際に基準となるのは、上に置くテレビのサイズではなくて、テレビのスタンド部分のサイズだ。Bose Solo TVの上に置けるテレビは、スタンド部分の幅が508mm以下で、奥行きが260mmまでのものとされている。重量は18kg以下だ。なお、Bose Solo TV自体のサイズはW525×D309×H71mmで、重量は4.6kgとなっている。
実際にBose Solo TVを接続して使用してみると、テレビ単体の時とは、明らかに音の質が変わる。特に、ニュースやドラマなどの音声の明瞭度は大幅に向上する。一方、サラウンドシステムを積んでいるわけでもなく、要するに、テレビサウンド用のアクティブスピーカーであるため、映画やスポーツなどの番組では、臨場感の向上はそれほど感じられない。
最近のボーズのスピーカー、特に設置面積を減らしたパーソナル向けモデルの多くでは、サブウーファーを組み合わせる、あるいは同社が「ウェーブガイド・スピーカー・テクノロジー」と呼ぶ、長大な共鳴管を使用した、重低域重視の味付けが行われている製品が多い。それに対してBose Solo TVは、普通のリアバスレフのシステムだ。背面のバスレフポートを壁に近づけることで、低域は強くはなる。それでも、例えば「SoundDock」シリーズのような重低音再生が可能になるわけではない。
しかし、この点はさほどマイナスにはならない。テレビのサウンド、中でも音声の聴き取りやすさを重視するのならば、重低音の必要性はさほどない。
さて、テレビ用スピーカーとしての話はここまでだ。Bose Solo TVは、ボーズの製品であり、ただ単純にテレビの音質を向上させるためだけに使うには、ちょっともったいないスピーカーでもある。
筆者は、Bose Solo TVを1週間程度借りていたのだが、その間ほとんど、PCをつないで音楽再生用として使用していた。普通に音楽を聴くためのシステムとして、なかなか快適なのだ。とはいえ、Bose Solo TVを純粋にオーディオ用として使うためにチョイスするという人は、さすがに少ないはずだ。まずはテレビをつないで、そのうえで他に何らかのAV機器を接続したいと考えるところだろう。
ここで問題になるのがBose Solo TVの入力インタフェースだ。装備している端子は、光デジタル×1系統/同軸デジタル×1系統のデジタル音声入力に、RCAピンのアナログ音声入力×1系統の計3系統だ。しかし、これらを同時に使用することはできない。入力は優先度が決められており、光デジタルが最優先、同軸デジタルがその次で、アナログは最も優先度が低い。光デジタルケーブルが接続されている状態では、他の入力端子からの入力は無視されることになる。そういった仕様なので、付属のリモコンには入力切り替えは存在しない。操作できるのは、電源のオン/オフとボリュームのアップダウン、ミュートだけだ。
そのため、Bose Solo TVでポータブルオーディオプレーヤーなどのテレビ以外のソースを利用する場合には、Bose Solo TVの入力端子ではなく、接続したテレビの入力端子を利用することになる。テレビのHDMI以外の入力端子は使用頻度が下がってきていると思われるので、それほど大きな問題にはならないはずだ。
さて、Bose Solo TVの音の傾向だが、セリフなどをクリアに聴かせるテレビ用スピーカーというだけあり、ボーカルの表現力は高い。中域を中心とした聴き疲れしないサウンドには、ある意味で懐かしさを覚える。昔のボーズのエントリークラスのスピーカーは、こんな感じだったように記憶している。また、Bose Solo TVには、4本のスピーカーユニット(同社での名称はトランスデューサー)が、それぞれ外向きに配置されており、極端な指向性を持ってはいない。部屋のどこに設置しても、音のバランスが崩れるようなことは起こりにくい。
Bose Solo TVはワンボックスタイプであり、イージーリスニングに限っていえば、小型のドックスピーカーよりも表現力は高い。テレビ用スピーカーとしての用途に加えて、ボーズのスピーカーのエントリーモデルとしても、ちょっと面白い製品だといえるだろう。