映画『シュレック』や『ナルニア国物語』シリーズで知られるアンドリュー・アダムソンが監督・脚本を手がけ、ジェームズ・キャメロンがプロデューサーとして参加した映画『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語』が11月9日に公開される。自身が監督・脚本を手がけた映画『アバター』にて、圧倒的な映像美で世界を驚愕させたJ・キャメロンは、同作でどのような形で世界を驚かせてくれるのだろうか。巨匠J・キャメロンに話を聞いた。

ジェームズ・キャメロン
カナダのオンタリオ州カプスカシング生まれ。アーノルド・シュワルツネッガー主演の『ターミネーター』(1985年)で脚本と監督を担当。同作の大ヒットを受け、『エイリアン2』(1986年)の監督、『ターミネーター2』(1991年)、『トゥルー・ライズ』(1994年)、『タイタニック』(1997年)、『アバター』(2009年)の脚本/製作/監督を手掛ける。これまでにアカデミー賞の作品賞・監督賞・編集賞、ゴールデングローブ賞の監督賞と作品賞などを獲得している

――最初に、どういった経緯で、この企画に参加することになったのか教えて下さい。

「映画『アバター』を撮り終えたころ、3D版"シルク・ドゥ・ソレイユ"の製作をシルクの代表であるD・ラマールが提案してきたんだ。彼らはアンドリュー・アダムソンを監督に起用し、3Dカメラの技術について私に相談してきた。この作品の製作に誘われてとても嬉しかったし、可能な限り協力すると返事をしたよ。製作総指揮を務めてほしいと言われたときは 「撮影も担当させてくれるならやる」と言ったよ。だからクレジットに"撮影担当"とも記載されているんだ」

――同作では、演出にも携わったのでしょうか?

「あくまでも監督はアダムソンだから一切携わっていないよ。作品のデザインや脚本を組み立てたのはアダムソンだ。彼は私に会ったとき、私が演出に口出ししないか心配そうにしていたよ(笑)。だから「私は君のサポートに徹するだけだ。素晴らしい3D映像を仕上げる手伝いをするよ」と伝えたんだ」

――キャメロン氏の感じる、シルク・ドゥ・ソレイユの魅力を教えて下さい。

「シルクは特別な存在だ。彼らのショーはすべて魔法のようだ。デザインや衣装や音楽、彼らの身体能力も含め、想像の世界が完ぺきに表現されている。3Dでシルクのショーを鑑賞することができれば最高だと、以前から思っていたんだ。今回はラスベガスに常設されている<O>や<KA>といった7つのショーを撮影してほしいと言われたよ。壮大な作品になることは間違いないと思ったね。シルク・ドゥ・ソレイユには典型的なサーカス要素も含まれているのに、通常のサーカスとは全く別で独創的なものなんだ。シルクを創設したギー・ラリベルテは新しい形のサーカスを考案し、想像力をかきたてるものに作り変えたんだよ」

――それほど舞台として完成されている作品を映画化することに迷いはありませんでしたか。

「映画化することに対しては何の迷いもなかったね。僕は当初、ショーのストーリーや演出とは関係なくただ彼らのパフォーマンスを映像化できるだけでよかったんだ。でも監督は賢明で7つのショーを繋げるべきだと考えたんだ。彼は7つの“夢のテント”を思いついた。他のテントに移動することで別世界に行けるんだ。これで7つのショーが見事に繋がったよ」

同作は「シルク・ドゥ・ソレイユ」の中でも最高レベルのショーと賞賛されるラスベガスの常設ショー、「O(オー)」、「KA(カー)」、「LOVE(ラブ)」を中心にした7つの世界を繋ぐ愛の物語。地方のサーカスを偶然訪れた主人公の女性・エイミーが、空中ブランコを握り損ねて落下した青年を助けようと駆け寄るが、青年とともに地面の飲み込まれ、見たことのない不思議な世界に入り込んでしまう。エイミーは、さまよい歩きながら消えた運命の青年を探し求める

――今回はラブストーリーになっていますね。

「監督は、離れ離れになってしまう男女の恋愛を描くことを思いついたんだ。そして、迷い込んだシルクの世界でお互いを探し出す。主役を演じているエリカとイゴールは実際にシルクのメンバーだから、役者は使っていないんだよ。2人はシルクの中から選び抜かれたパフォーマーだ。でも一緒に演技をするのは初めてで、訓練を積み重ね、空中パフォーマンスを完成させたんだよ。彼は地上20メートルの高さで自分とエリカの体を腕1本で支え、宙を舞う。2人がやっと再会して最後に美しい空中バレエを披露する感動的な場面だ。イゴールがエリカの命を預かっているんだ、普通の映画では考えられないよね」

――今回はシルクの7つのショーを背景にしていますが、それぞれに何かテーマはありますか?

「たくさんあるよ。シルクは夢を現実にしたようなものだ。夢は物語のようだけど自由に変化して何を意味するのかも謎だ。シルクのショーも同じだよ。作品が意味していることやメッセージを自分で好きに創造して解釈する。答えは教えてもらえないから自分で考えるんだ。私も自分なりの解釈はあるが答えは知らないよ。人によってそれぞれ違うと思う。私の子どもたちはあっさり理解していたよ。キャラクターの関係性も見事に把握していた。子どもは物語を創るのに慣れているから簡単なんだろうね。大人は映画を見ても自分で解釈をしようとせず詳細の説明を必要とする。でもシルクには説明なんて必要ないんだよ」

――映画化するにあたり最も意識したことを教えて下さい。

「私は撮影の方法に最も尽力したよ。キャストや脚本、絵コンテや視覚効果はすべて監督に任せた。ショーの撮影に関しては、私はU2などのコンサート撮影の経験があったから、ライブ公演における撮影方法は熟知していたんだ。観客席からのみ撮影するのではなく、パフォーマーの表情を捉えるためにステージ上で撮る必要もある。それらを組み合わせたんだよ。

観客を入れての撮影と“ダークデイ”と呼ばれる日に公演をせずパフォーマーにショーの特定の部分のみをやってもらう撮影をしたんだ。それでも彼らのパフォーマンスは体力の消耗が激しいから1度に2テイクしか撮れない。その中に映画としての要素も含ませてライブと映画のスタイルをうまく融合していったんだ。観客は彼らの動きに引き込まれるよ。シルク・ドゥ・ソレイユの観客は遠くからショーの全体を見ているけれど、カメラでパフォーマーを個別に撮影すれば、どんなにすごい場所で演技を披露しているのか分かるはずだ。地上27メートルで彼らが演技するのを見れば目まいが起きるよ。素晴らしいショーのために彼らはここまで危険を冒しているんだってね」

アンドリュー・アダムソン(左)とジェームズ・キャメロン

――同作では、どのような3D技術を使ったのですか?

「新しいカメラシステムを2つ導入したよ。アリ社のアレクサカメラは微光での撮影に適していて大活躍だった。それとレッド社のエピックカメラやカメラリグを18種類も使用した。新しいものも含め倉庫の機材はすべて使ったよ。レッド社の水中カメラも初めて使った。<O>の撮影の際には見事な水中でのスローモーション映像が撮れたんだ。とにかく新たなカメラシステムを多く導入したよ。カメラも18台使用した。映画史上最も数が多かったはずだよ、『アバター』のときは3台だったからね」

――最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

「『シルク・ドゥ・ソレイユ3D彼方からの物語』はシルクの魔法で溢れています。ぜひ劇場で楽しんでください」

映画『シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語』は、11月9日より、TOHOシネマズ有楽座ほか、全国ロードショー。

(C)Desiree Navarro Getty Images

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