"自分らしさ"って何だろうと悩む人へ

読者の中には、神山監督に憧れるクリエイターや、クリエイターを目指す方も多いだろう。何を作ってもすぐに情報の渦に飲み込まれてしまう時代、若い人たちがこれから何を目指して行けばいいのか、アドバイスを伺った。

神山監督「これは、最近、うちのスタッフたちにも言っていることなんですが……。とにかくモノマネをしないんですね、若い人たちが。もちろん、個性だったり、自分を早く出したいという部分も大切だと思うんですけど、何かを作る時は"共同作業"なるんですよね。その共同作業の中にはまっていないと、せっかく能力が高かったとしてもそれは"異物"であって、評価の対象にならないんです。(モノマネでは)個性が出せないとか、同じ事をやってもつまらないとか、一見思うんですよ。(だから他人と違うことをして、)なぜ受け入れられないんだろう、なぜ評価されないんだろうと、僕も20代~30代の前半は思っていました。

ある時、何をやっても分かってもらえない、ならばもうマネをしようと、全く同じ事をやったらようやく『やっとわかってきたね』と言われたんです。同じ事をやれば、良いか悪いかの判断がはっきりするんですよ。さらに言うと、上手くできている部分においては同じ事をやっていても絶対同じにはならないんです。そうすると、いずれは同じにならない部分こそが自分の個性として評価をされてくるんです。また、("同じ"部分が)良かった場合には"違う"部分も含めて褒めてもらえるんですよ。

でも、ある時から『こんなにマネをしても同じ事はできないや』と思い始めるんです。それでも気付くと、自分自身では『できない』と思っていた部分が、上の方からすると『しまった、こいつはこんな事ができている』と見られるようになり、ようやく上の方からライバル視してもらえるようになる。だからこそ、先輩のマネをしなさい、ということを最近は言いますね。なかなか分かってもらえませんけど、実はそれが一番の近道だったと、今振り返ると思うんです」

『攻殻機動隊 Stand Alone Complex』において、タチコマを通して描かれた"並列化の果ての個性の獲得"を連想する人もいるだろう。だが人間は自動的に並列化されることはない。まずは自ら列に並ぶことが、スタート台に立つ第一歩になるということだ。そしてもちろん、個性を獲得する事がクリエイターとしてのゴールではない。

神山監督「前の作品を喜んでくださった方に、次の作品で同じ事をやっても喜んでもらえないんですね。同じだと後退したと見られてしまう。今まで作った作品をさらに超えられるような驚きや面白さを、どうやったら見つけられるか。それは作る上で絶えず考えていますね」

映像的にも、映画作品としても、『009 RE:CYBORG』は確実にこれまでの神山監督作品を超えた世界を見せてくれる。さらにそれを超えるものへ、監督は今もチャレンジし続けている。

映画『009 RE:CYBORG』は、現在、全国公開中。

(C)2012『009 RE:CYBORG』製作委員会