10月23日、ニコニコ生放送にて映画監督・押井守氏と、ドワンゴ取締役・夏野剛氏の対談が行われた。対談自体は夏野氏の著書『なぜ大企業が突然つぶれるのか』発売を記念してのものだったが、その内容は現在の大企業の姿勢へのダメ出しからコミュニケーションの本質についての議論に至るまで広範囲にわたり、非常に興味深いものとなった。

対談はドワンゴクリエイティブスクールで行われた

最初のトークテーマは、押井監督の代表作『攻殻機動隊』について。夏野氏はまず、「日本のメーカー経営者は攻殻機動隊を熟読せよ」と強く主張し、その理由として「SFアニメやSF小説は新しい製品を作る上でとても参考になる」ということを挙げる。夏野氏といえばdocomo時代、iモードやおサイフケータイといった機能を生み出したことで有名だが、そうした製品も実はSF作品を参考にして生まれたものだという。

ドワンゴ取締役・夏野剛氏

その上で夏野氏は「大手メーカーの経営者は基本的にSFを読んでいない。なぜか『社長島耕作』の読破率だけが高い。見ていない人はクビでもいいくらい」と強く主張する。

この夏野氏の論に対し、押井監督は「いや、見なくてもいいと思うんだけど」と切り返す。もっとも、それは夏野氏の意見を否定するものではない。押井監督によれば重要なのはSF云々ではなく、「ビジョンを持つこと」なのだという。「毎朝、日経新聞を読んでいるというのが良くない。現場をやっている人はそれでいいけど、経営者はそれではダメ。漫画を読めとはいわないけど、本をたくさん読んでビジョンを持ってほしい」。

『攻殻機動隊』『スカイ・クロラ』など多数のヒット作を生み出した押井守監督

押井監督のこの意見に夏野氏も賛同し、経営者がビジョンを示せていないことで、今の日本のメーカーは窮地に陥っていると持論を展開する。

夏野氏:「僕はパナソニックは10年ももたないと思う。スマホで省エネしているかどうかわかる冷蔵庫が出たけど、あれはないよ」

ではなぜそうした製品が生まれてしまうのか。夏野氏はその理由について、「日本の開発者はサラリーマンとして生きているから」だと述べる。

夏野氏:「日本のメーカーはものづくりはうまいかもしれないけど、人の心を打つことができない。それは製品を誰のために作っているかがズレているから。会社で気に入られるためとか、電話機メーカーの場合はNTTドコモに気に入られるために作っている。そうじゃなくて、自分の奥さんのために作れと言いたい」……続きを読む