日本全国で、食材の地域ブランド化の勢いはとどまるところを知らない。競争が増す中で、いかにブランディングによる価値を認知してもらうかが課題となっている。「大間マグロ」や「田子にんにく」など、名実共にトップクラスのブランド食材を生み出してきた青森県も、「まだまだ、隠れた美味があることを知ってほしい」と、次なるスターブランドを育てようとしている。今回は、実際に現地で出会った、これから注目が高まること必至のお宝食材を紹介したい。

サバの新ブランド「八戸前沖さば」

青森・八戸市にある郷土料理と寿司の店「俵屋」

訪れたのは、八戸市の郷土料理と寿司の店「俵屋」。観光客のみならず、地元民に根強く愛されているこの店の目当ては、「船凍さば漬け丼」(980円)だ。美しく放射状に並んだサバをご飯と共に箸ですくい上げて、口に運ぶ。なんという脂のノリ!通常のサバとは一線を画した旨さであることがわかる。醤油ベースのタレで漬けにされたサバの身は、口の中で心地よくほどけて米と一体となる。半分ほど満喫したあとはだしをかけて、この一体感をサラサラと流し込むように味わう。ひつまぶしのうなぎのように、濃厚な味わいのサバを使っているからこそこのアレンジが合うのだろう。これぞ、青森県が自信を持っておすサバの新ブランド「八戸前沖さば」の実力だ。

お目当ての「船凍さば漬け丼」(980円)

一年のうち、最も旨いのは秋。日本国内では最北端のサバの漁場である八戸前沖は、秋の早い時期から海水温が下がるため、他の海域のサバよりも脂肪を豊富に含む。トップシーズンに漁獲されるサバは、粗脂肪分30%に達するものも。標準的なマサバの脂肪分は12%程度であるから、"大トロ"に喩えられるのも頷ける。この「船凍さば漬け丼」のサバは、最もおいしいこの季節にまとめて買い付け、鮮度が落ちないうちに船で凍結。これにより一年中、安定したおいしさを提供しているのだという。

こちらは、八戸産イカやイクラ、卵黄などを使った「八戸ばくだん」(1,050円)

八戸に暖簾を掲げて35年ほど。同店を経営する沢上弘さんは、未来の青森への思いを込める。「昭和30年代は、サバは山ほどとれたものですが、その後漁獲高は激減しました。青森の人間にとっては最も親しみのある魚ですが、苦手な子どもいます。『八戸前沖さば』のおいしい料理で、地元の子どもたちにもしっかり郷土の味を伝えていきたい」。

串焼きからシメサバまで、あらゆるサバ料理が味わえる姉妹店の『サバの駅』も人気だという。サバのサンドイッチ「サバンド」など、ユニークな名前のメニューもある。いよいよ本格的なシーズンの到来、このサバだけを目当てに青森を訪れても、決して損のない旅になるはずだ。