NHKの報道によれば、ソフトバンクは米携帯キャリア第3位のSprint-Nextelの買収で交渉に入ったという。現在のSprintの時価総額は約150億ドル(約1.2兆円)で、もし交渉が成立すれば1兆円を超える大規模買収となる可能性がある。トップを走るVerizon WirelessとAT&Tには大きく及ばないものの、MVNOを含むSprint単体で約17%の契約数シェアがあり、買収が成立すれば米国進出の大きな足掛かりとなる。
Sprintは全米第3位の携帯キャリアだが、Verizon WirelessとAT&Tの2社だけで全米シェアの6割近くを占めており、先日経営統合を発表した独Deutsche Telekom AG傘下のT-Mobile USAと米MetroPCSの2社を合わせた13%のシェアを挟んで中規模のランクに位置する。キャリアの特徴としては3GネットワークにCDMAを用いていること、そして他社のMVNOの受け入れ先として多数のパートナーキャリアを抱えている、MVNO比率の高い点が挙げられる(Virgin Mobile USAなどが有名)。また4GネットワークとしてはもともとXohmのブランド名でWiMAXを全国展開していたが、政府の仲裁で投資効率化のために同じくWiMAXネットワークを全米展開していたClearwireと提携関係となっている。Sprintは自身のWiMAX資産をClearwireに譲渡する形で、Clearwire発行の株式を譲り受け、同社の半数近い株式を保有する筆頭株主となった。提携の後にSprintはClearwireからWiMAXネットワークの供給を受けていたが、現在では独自にFDD-LTEネットワークへの投資を開始し、今春には商用LTEサービスを正式スタートするなど、Clearwireとは一定の距離をとるようになっている。一方のClearwireはWiMAXへの継続投資をストップし、現在ではTD-LTEネットワークの構築にリソースを注いでいる。
ソフトバンクについては多くを語るまでもないが、先日には携帯事業のイーモバイルを展開するイーアクセスの1800億円での買収を発表しており、すでに傘下に収めたウィルコムと合わせて、契約数ベースで業界第2位のauブランドを展開するKDDIに並んでいる。ソフトバンクがSprint買収を狙う意図の1つは、トレンド発信基地である米国へと進出することで、ビジネスの海外展開を加速させること。そして当然ながら、加入数ベースで世界シェアを拡大することにある。一方でソフトバンクがGSMベースのネットワークを展開するのに対し、SprintはCDMAでネットワークを全米展開するなど、端末間の互換性がなく、このあたりの差異をどのように吸収してスケールメリットを出すのかが気になる。また前述のようにSprintは米国のMVNOの受け入れ側キャリアとしては最大手であり、こうした特性をどのように活かしていくのかがポイントだろう。今後金額面や米当局からの買収許可も含め、多くのハードルが存在するが、日本から米国への本格進出を目指すケースは初であり、大きな注目に値する。
なお、ソフトバンクが日本での携帯電話事業開始にあたって事業の譲渡を受けた英Vodafoneは、米国において契約数首位のVerizon Wirelessに半数近い株式を保有しており、もしソフトバンクによるSprint買収が成立すれば、ライバルという形で相対することになる。