日本ホテルの運営する「東京ステーションホテル」が3日、リニューアルオープンする。東京駅丸の内駅舎の開業翌年からおよそ100年、駅とともに歩んだホテルが、駅舎の「復原」とともに新しい歴史を刻んでいく。グランドオープンに先駆けて行われた報道公開の様子から、最上級の客室、レストラン、リラクゼーション施設など、その魅力を紹介しよう。
大幅な客室増、フロアレイアウトはすべて見直された
「東京ステーションホテル」は東京駅開業の翌年、1915年に開業した。種村直樹氏の著作『東京ステーションホテル物語』によると、客室は2階に15室、3階に41室の計56室。食堂は1階の駅食堂のほか、2階にメインダイニングルーム、アメリカ式のバー、国内最大規模のプールバー、図書室、理髪店、共同浴場などがあったという。この共同浴場は、バスを備えていない客室のために用意されていた。バス付の客室は14室のみ。建物の一部は従業員用で、独身寮も併設されていた。
経営は飲食店を成功させた精養軒に委託された。精養軒は、「宿泊の帝国(ホテル)、料理の精養軒」と呼ばれるほどの伝統と実績があった。また、築地精養軒ホテルなど宿泊業の実績もあった。当時は宿泊だけの黒字は難しいという考えがあり、レストランを重視したという。その後、関東大震災や経営者の移管などがあり、幾度かの改装を経て、客室数は68室に増えている。それでも今回オープンした150室よりずっと少なかった。
東京大空襲で3階以上のほとんどを消失し、再建された当時の客室数は61。フロアが大幅に減っても客室減が少なかった理由は、駅事務所を空けたこともあるけれど、開業時の客室がいかに広く贅沢であったかを予想させる。今回のオープンでスイートルームは1室のみだが、開業時はスイートルームが8室もあったという。もっとも、今回報道公開された客室はどれも一流ホテルにふさわしい広さを備えている。
同ホテルによると、リニューアルオープンにあたってフロア配置は全面的に見直されたとのこと。リニューアル前に2階にあった宴会場は1階部分に移され、駅業務に必要な事務室なども1階に集約、その空間がホテル増床となった。合計150室は、こうしたレイアウト変更や、復原新築された3階以上のほとんどを客室に充てたために実現できたといえる。
パーティもできる「ロイヤルスイート」を公開、トレインビューは3室
「ロイヤルスイート」の広さは173平方メートルで、丸の内駅舎3階中央にある。室内に入ると広大なリビングルームがある。ソファや大きなダイニングテーブルがあり、パーティや会食にも対応できる。宿泊客やその訪問客ももてなす空間だ。このリビングルームにはデスクもあるが、他に仕事や創作に没入できそうな書斎も用意されている。
寝室は大きなダブルベッド。その窓は行幸通りを正面にとらえる。全客室の中で、建物中央にあるこの部屋だけの眺望だ。日中は皇居の森が見通せて、夜間は丸の内ビル街の夜景を独り占めできる。宿泊料は80万8,500円(別途東京都宿泊税が必要、以下同じ)。
「スイート」は4室あり、このうち2室がメゾネットタイプとなる。公開された部屋はメゾネットタイプで、下層がリビング、上層が寝室となっている。広さは上下合わせて120平方メートル。この3093号室は丸の内駅舎南側の角にあり、東京中央郵便局(JPタワー)の向かい側。ベッドの枕部分の丸窓から列車が見える。宿泊料は34万6,500円。
列車が見える部屋はここの他に、スイート1室、クラシック1室の合計3室。線路側に面した客室もあるが、中央線の高架橋にさえぎられ、ホームの様子は見えない。トレインビューといえば、松本清張氏の小説『点と線』だ。松本清張氏が執筆に用いた部屋と同じ位置の廊下(2階)には、『点と線』の連載第1回ページと当時の時刻表が飾られている。
列車は見えないものの、東京駅に泊まるという実感を得られる部屋は「ドームサイド」だ。丸の内北口、丸の内南口をそれぞれ見下ろす位置にある。ドームサイドは28室が用意されている。広さは30~44平方メートルで、料金は3万8,115~5万6,595円。なお、最低料金は、「クラシック」23平方メートルの部屋で3万30円からとのこと。
各部屋ともヨーロピアン・クラシックをほうふつとさせるデザインで、ベッドやアメニティなども最高級の居心地をめざしたという。メモ帳は原稿用紙のデザインで、文豪が愛した東京駅の歴史を感じさせる。「ドームサイド」「パレスサイド」の部屋については、5月30日に掲載した内覧会のレポートでも紹介している。
"セントラル・ステーション"にふさわしいレストランがそろう
同ホテルに用意された飲食店は10施設プラス1。「プラス1」とは、宿泊者専用の朝食ラウンジ「アトリウム」のことだ。フレンチのシェフによる「コンチネンタルブッフェ」は約50種類の品数で2,800円。卵料理を追加できる「アメリカンブレックファスト」が3,600円。他に3,800円の和定食を選択できるとのこと。
ライブラリ(左)は鉄道や東京駅に関する本、子供向け絵本がある。また東京駅ゆかりの品も展示されている |
アトリウムには3カ所の個室がある。有料ながら、朝食を取りながらのミーティングや、乳幼児連れのファミリーに便利だ |
ほか10施設は宿泊者以外も利用できる。そのうちレストラン「ブランルージュ」「ロビーラウンジ」「カメリア」「オーク」がホテル直営だ。
「ブランルージュ」はフランス料理のレストラン。同ホテル総料理長の石原雅弘氏が手がける、伝統的なフレンチの技法と現代的なエッセンスを融合させたコース料理がメインとなる。ランチは3,600円から。ディナーは8,000円から。2階南側にあり、テーブルは最大70席。ほかに12名、8名、6名の個室がある。
「ロビーラウンジ」は高い天井の下、自然光のさしこむ格調高い空間でコーヒーやオリジナルフレーバーティーを楽しめる。シェフパティシエの瀧澤一茂氏は同店のほか、直営店すべてのスイーツを担当。味だけではなく、遊び心のある仕立てで見た目も楽しめるスイーツを心がけているとのこと。1階ホテルエントランス横にある。
休館前はバーの名店として知られていた「カメリア」。2階南側でリニューアルした同店はバー&カフェとなり、ボリューム感のある料理も提供する。休館前にあったレストラン「ばら」の人気メニュー「ビーフシチュー」も継承される。このビーフシチューは1951年の開業時に、元築地精養軒の料理長だった初代ホテル支配人、五百木竹四郎氏が考案したという。
「オーク」は「東京ステーションホテル」の象徴ともいえるバー。南口ドームそばの2階にある。多くの著名人が訪れ、交流し、あるいはひとりでのひとときを楽しんだ店。バーカウンターにはおなじみの顔、名バーテンダーとしてホテルの歴史とともに歩んできた杉本壽氏の姿が。彼が生み出したオリジナルカクテル「東京駅」も健在だ。
その他の飲食店は、テナント店として日本料理「しち十二候」、すし「青柳」、中国料理「燕」、鳥料理「瀬尾」、喫茶「TORAYA TOKYO」、イタリアンワインバー「エノテカテーリオ」がある。また、地下1階には「Fitness & Spa at Tokyo Station Hotel」として、「SPA TOKIONE」「Fitness Lounge THE JEXER TOKYO」「BATH & RELAXING」という3つのボディケア施設がそろっている。