並ぶWindows 8世代の製品群
2012年9月27日からの2日間、日本マイクロソフトのお膝元である東京品川で企業ユーザー向けのイベントThe Microsoft Conference 2012が開催された。本イベントでは、間もなく市場に投入されるWindows 8を中心とするMicrosoftの次世代製品が紹介された。初日のキーノートでは日本マイクロソフト代表執行役社長の樋口泰行氏が登壇し、企業向けの製品とサービスが国内でも順調な伸びを見せていることに自信をのぞかせた。
樋口氏は日本企業の現状に対し、世の中の変化に鈍感で成功体験に胡坐(あぐら)をかいてしまっていることが問題であり、これをチャレンジする企業に変えて競争力を強化しなければならないと指摘する。それを実現するためには人が変わらなければならない。そこで、ITがイノベーションを支え、ITによって人のワークスタイルが変化し、最終的には経営が変わるという。
こうした同社のビジョンを実現する製品として「Windows 8」「Windows Server 2012」そして「次期Office」の3製品を柱に、Microsoft始まって以来の規模で新製品のリリースがあると語った。
西脇氏によるデモンストレーション
続いて、エヴァンジェリスト養成講座でおなじみのテクニカル ソリューション エヴァンジェリスト西脇資哲氏が登壇し、製品のデモンストレーションを行った。
最初に紹介されたのはKinectセンサーを用いたソリューションだった。元はXbox 360向けのゲームコントローラーとして開発されたKinectだが、現在ではWindows PCに接続して利用できるKinect for Windowsが発売されている。
KinectセンサーはRGBカメラと赤外線深度センサー、そしてマイクアレイが搭載されており、物体までの距離や音源の位置を感知できる。これを応用して、ジェスチャーによるPCの操作や、ユーザーの行動を捉えることが可能だ。
西脇氏によるデモンストレーションでは、コンビニやスーパーで見かける飲料水の棚から、顧客がどのような手順で商品を選択するか行動を追跡するソリューション「ショーケーストラッカー」が紹介された。棚の上部から見下ろす形でKinectが備え付けられており、一度手にした商品を元の棚に戻し、別の商品を選択するなどの過程をデータとして取ることができる。
KinectセンサーからはWebカメラと同等のカラー画像と、画像のピクセルに対応する物体までの距離を取得できる。これを解析するのはソフトウェアだ。このような非構造的なデータを蓄積し、適切に分析することで、これまでは得られなかった顧客の動きや心理を可視化し、ビジネスインテリジェンスとして活用できる。
西脇氏はExcelを使って、セル上に並んでいるだけの数字から、基本的な操作だけでデータの特徴を可視化する方法を紹介した。専用のアプリケーションを開発しなくても、ある程度のデータ分析はExcel上で行える。
さらに、SharePointを用いてチーム内でデータを共有し、統合的なコラボレーション環境のLyncを用いて遠方のスタッフとリアルタイムに同じデータを見ながら、議論や編集を行うデモンストレーションを行った。
また、企業向けのWindows 8 Enterprise のみで提供される機能となるが、場所や環境を問わずに仕事ができる新しいワークスタイルの提案として、USBメモリにWindows 8の環境そのものを入れて持ち歩くWindows To Goが紹介された。
古いWindows XPが動いているPCにWindows 8環境がインストールされているUSBメモリを差し込み再起動すると、USBメモリからWindows 8が起動するというデモンストレーションだ。ただし、このWindows To Goを快適に使える環境は限られており、現時点の標準的なUSBメモリのほとんどは使い物にならないだろう。リムーバブルディスクではなくローカルディスクとして認識される高速な外付けUSBストレージが必要になる。
導入環境が限定されるのは残念だが、こうした技術の組み合わせによってハードウェアに縛られることなく、どこにいても、どのような端末からでも、ユーザーに紐づいてデータやアプリケーションが動作する「ユーザー環境の仮想化」が実現できる。
クラウドOS構想と次世代のデータセンター
続いてMicrosoft本社よりサーバー&マーケティンググループの沼本健コーポレートバイスプレジデントが登壇した。
沼本氏は「クラウドの時代はデータの時代」と話し、コンピュータ、ストレージ、ネットワークの全てで消費が拡大すると予想。データセンターもそれに合わせて増強しなければならず、ハードウェア資源を効率的に運用しなければならい。
そこで、物理的なコンピュータ単位でではなく、データセンターという単位で管理統合する「クラウドOS」という概念を提唱する。実際に「クラウドOS」に相当する製品があるわけではなく、データセンターを巨大なリソースプールとして無駄なくダイナミックに活用するためのビジョンであり、Windowsを中心に、すべての製品がこのビジョンの実現を目指しているという。
見えてきた次世代の戦略「デバイス」+「データ」+「クラウド」
企業向けのサーバー製品やビジネスツールでは売り上げを伸ばしているMicrosoftだが、Appleが得意とするようなコンシューマ製品では苦戦が続く。iPhoneの登場以来スマートフォンで大きく後れを取り、タブレット端末でもiPadとAndroidに対して後手に回っている。
だが、コンシューマを取り巻く環境の変化は察知しており、だからこそWindows 8で新しいUIを導入する大きな挑戦に出てきたといえる。特に、これまでPCの製造と販売はパートナー企業に委ねてきた同社が、自社製のタブレット端末Microsoft Surfaceを発表したことは大きな変化だろう。
樋口氏はコンシューマのデジタル化が進み、誰もが朝起きてから夜寝るまで、常にスマートフォンなどのデバイスと共にあり、企業環境もこれを活用しなければならないと指摘する。いわゆるコンシューマライゼーションだ。社内で閉じたネットワークは時代遅れであり、どこにいても、どの端末からでも、ネットワークを通して必要なデータやアプリケーションに(もちろんセキュアに)アクセスできなければならない。
MicrosoftはWindows 8やWindows Phoneなどのデバイス、Windows ServerやWindows Azureなどのサーバー製品、そしてOffice 365のようなサービスまで、各層で技術と製品を持っていることが最大の強みであり、次世代製品の目標はこれらをシームレスに繋ぐことだろう。
今後、ユーザーが持つデバイスから多様な情報を集め、膨大な量の非構造的なデータを蓄積し、これを適切に分析して利用できるビジネスが注目されると考えられる。ここ数年、MicrosoftはWindows Azureや仮想化などクラウドに結びつく技術に注力しており、今後はWindows 8やWindows Phone 8のデバイスと連携させ、デバイスとデータの価値を最大限に高めていく戦略を取るだろう。
Apple成長の陰で存在感を示せていないMicrosoftだが、好調な企業向け製品やクラウドベースのサービスとコンシューマ製品をうまく結びつけることができれば一石を投じられるかもしれない。