東映は29日、当時有害図書として発禁問題を引き起こした鬼才・ジョージ秋山の漫画を映画化した『アシュラ』の初日舞台あいさつを、東京・新宿バルト9にて行った。声優の野沢雅子、平田広明、主題歌を担当した小南泰葉らが登壇したほか、キャスト陣も知らされていないサプライズがあり、大いに盛り上がったイベントとなった。
今回の舞台あいさつは、先日の先行プレミア上映会とは異なり上映後。終了後の会場は、あまりに衝撃的な映像の連続からか声を発することすら憚れる雰囲気だったが、野沢、平田、小南、そしてさとうけいいち監督が登場すると一転。その緊張も少しづつ解かれていき、舞台あいさつがスタートした。
まず、こうして映画公開日を迎えた現在の率直な気持ちについてアシュラ役の野沢は、「これまでさまざまな映画で声優を担当してきて、今回ほどどれだけのお客さんが来てくれるのか心配になった作品はありません。それだけにこうして大勢の皆さんとお会いできるのがとてもうれしい」と、安堵を語りつつも同時にその表情からはうれしさが溢れていた。また、「なぜこれが発禁になるのかがわからない。だって、これは人間の底辺で、一番見つめなきゃいけないところ。この映画をしっかり見てほしい」と、いかに本作が表面的な描写部分のみで「発禁」となり、そこのみがフォーカスされ、本質的なメッセージが伝わっていなかったかを強調した。
七郎役の平田は、「この作品では洪水のシーンも出てきます。東北地方の津波を実際に経験された方々は直視できないぐらいリアルな映像だと思います。でも、そういう部分にも目を背けてはいけない。我々は自然の災害の恐ろしさを知っておくべきだと思います」と、本作が震災以降の我々にとって直視すべき描写があると語り、続く小南は「今回主題歌を歌うことになり、普通に生きていたら出会えないような監督やキャストの皆さんをはじめ、たくさんの人とお仕事ができ、本当に光栄です」と、この仕事で出会った人々がいかに自身のキャリアにおいてかけがいのないものであるのか、その喜びをかみしめていた。
また、スペインのサン・セバスティアン国際映画祭に出展、上映もされた本作だが、さとう監督は「スペインの方々は非常に熱く、深夜にもかかわらずたくさんの人が集まってくれた。作品を見て驚いたようだが、生きるということや命のありがたみといったメッセージは伝わったようだ」と確かな手ごたえを感じているようだった。
そして、さとう監督からは初日のお祝いとして、世界で2つというオリジナルのアシュラ人形(名前入り)が野沢と小南にプレゼントされる。特に野沢は「私、好きなものは自分のベッドに置いて寝るんです。一緒に寝たらアシュラ君の夢を見るかも」と大感激。「かわいい!」と大喜びの女性2人に対して、うらめしそうにに見つめる平田。「次の作品では僕、女性役やります」と少しすねた表情を見せると、会場は笑いに包まれた。さらに29日「肉の日」にちなんで、スペイン産の巨大な生肉(生ハム用)とワインがキャスト陣に送られ、フォトセッション用に注がれたワインを平田があっという間に飲みほすと、来場者の喝采とともにここでも大きな笑いが起こった。
最後に野沢は「ポスターには"眼を、そむけるな"と書いてあるとおり、私もどのシーンもとても大切です。ぜひワンカットワンカット見逃すことなく見てください。何年か後になんらかの形で絶対に残っていると思います」と、作品と同様、発する言葉一つ一つに強い意志を込めるように語っていた。
(C)ジョージ秋山/アシュラ製作委員会