TOEIC対策の勉強法を指導するのみならず、TOEICの分析など、17年にわたり研究を行っている 東洋英和女学院大学教授 高橋基治さん。多くの学生に支持され、TOEICに関する著書も数多い高橋さんに、長年の研究に取り組んできたからこそ知り得るスコアアップのノウハウや、最近の傾向、効果が上がる勉強法などをお聞きしました。
まずは全体像を把握する
――長年TOEICにかかわっていますが、最近の傾向はいかがでしょうか。
最近は大手薬品メーカーが新卒採用でTOEIC 730点以上の取得を義務づけたように、グローバルな企業では、かなり高いレベルのスコアを求められるようになりました。以前は就活で必要とされるのは600点でしたが、社会のニーズが730点に移行したことになります。
この130点の違いは大きいですね。地方の中堅企業などでも、社員に対し高いスコアの取得を希望しています。実際に仕事で英語を使っているビジネスマンに聞くと「800点以上は必要だと思う」と言いますね。
しかし実際どの程度の人が730点取得するかといえば、昨年の受験者では、比較的英語が好きな人、意欲の高い人が受験する公開テストでも730点以下が82%。8割が730点取得できていません。
IPテストでは730点以下は93%。730点以上取得できているのは10人に1人いないのです。平均が400~500点ですから、600点取得できていれば、最低限の英語力があるということで履歴書に書けるでしょう。ただし、求められているハードルはもっと高いところにあることを忘れないでください。
――高いスコアを目指すには、まず何が必要でしょうか。
初級者の場合は、TOEICのスコアが本当に自分に必要か、点数のメリットがあるのかを考えてみましょう。「取りあえず受験」組はモチベーションの維持が難しいですし、スコアも伸びません。多いのは学生が就活を始める直前になって、周囲の友達が就活のために取ろうとしている姿を見て、「取りあえず受験」するパターンですが、これではスコアもやる気もついてきません。
何点取得できればこの職業に就ける可能性が高まるとか、どうしてもグローバル企業で海外勤務を経験してみたいとか、スコアのメリットによって自分の将来像がイメージできれば、強い動機づけとなりますし、生活のなかで英語に接触する仕掛け作りもするようになります。まずは必要性、そして必要なら何点必要なのかを考え目標設定しましょう。
――初級者はどのように勉強すればよいですか。
全体像を知らなければなりませんから、まずは公式問題集を使い、本番のように2時間で200問解いてみます。恐らく最初は最後まで終わらないと思いますが、どの程度の問題の量があるのかを把握できますし、正答数から予想得点が出るので、自分の現在の実力、目標スコアとの差や弱点がわかります。
これをやらない人が意外に多いのですが、それでは走ったこともないのにマラソンのレースに出場するようなもの。ちゃんと、一度完走してみることが大切です。
それから基礎を学びましょう。
多くの人は書籍を購入するのですが、買うだけでは本はスコアには貢献してくれません。一番いけないのが購入するだけで安心し、少し問題を解くだけで満足してしまうこと。これでは本を使いこなしていません。本とどうかかわるかでスコアが伸びるのです。
テキストは文字の見やすさなどでなじむものを選べばいいと思いますが、初級者には文法が大事なので、TOEICに特化した中学レベルの文法の本をおすすめします。
私は初級者の方には「新TOEIC(R)テスト 中学英文法で600点!」というテキストを勧めていますね。これを最低3回、問題を見たら解答がすぐわかるまで徹底して取り組みます。記憶するくらい1冊を短期間に繰り返したほうがいいのです。
基礎がないまま公式問題集に取り組んでも、解説の意味がわからないので、ある程度で伸び悩んでしまいます。マラソンでいえばまずはジョギングで基礎体力をつけるようなイメージです。
問題と解答を覚え、どのページを開いてもわかるようになれば、次の問題集に進むのです。問題集を1回取り組んだだけでほかの情報が気になり違う教材を買い、それも数ページ解いただけでさらに違う教材を買う、ということをしがちですが、それでは教材にかけた時間とお金の無駄になります。
公式問題集を「書く」「音読」すればさまざまな効果が
――ほかに教材の効果的な使い方はありますか。
おすすめは公式問題集を使いこなすことです。解答を確認するだけでなく、出題の文章も書いてみましょう。TOEICは使われるテーマがいつも似ているのでテーマも頭に入りますし、話の流れをつかむ力や語彙(ごい)力もつくなどさまざまな効果があります。
ポイントは、まず日本語で文の意味を理解しておき、それから文の構造を意識して書くこと。これを何度も繰り返すことで、文章を自分のものにでき、語彙(ごい)力や文の構造を見抜く力がつきます。
そして音読です。単語をまとまり(チャンク)でつかむことができ、文章を見たときにすぐに意味がわかるようになります。初級者は単語を左から右へ一語一語追っていることが多いんですね。
だから時間がかかるし、疲れます。上級者は意味のかたまりをチャンクで追っていくので、早いし、ラクなんです。音読は、語彙(ごい)や文法を取り込め、「話す・聞く・書く・読む」の4技能も向上するという効果があります。声に出した量に比例してリーディング力がつきます。
リスニングでは、似た音の識別、例えば「work」と「walk」の聞き取りでひっかかることがありますが、それも声に出すのが少ないからです。自分で言うことができれば聞き取りは容易になります。
できれば音声テープと同じ速度で音読しましょう。そのためには単語と単語のつながりを言えなければならないし、消える音は消さなければなりません。
英語を聞いていて速くてわからないという人は速くしゃべることもできないんです。バッテイングセンターで、球速90キロで練習している人は120キロのボールを打てないでしょう。逆に、120キロで練習している人は90キロのボールは止まってみえるかもしれません。それと同じことです。
――教材の選び方にはポイントがありますか。
公式問題集とTOEICに特化した教材がいいでしょう。目指すスコアにもよりますが、600点を目指すなら問題を総括している塚田幸光先生の教材がおすすめです。
各パートの攻略方法が書いてあり、問題の見方を教えてくれます。公式問題集を解き、別の教材でポイントを知り、また公式問題集に向かうと、見えないところが見えてきて、勘が働くようになります。
TOEICに関係のない教材を使ってもあまり効果はありません。英字新聞の時事的な記事も、800点を超えるような人には有意義ですが、TOEICはあまり時事に関係する問題は出題されないので、試験対策としては必要ないでしょう。
――TOEICの問題に傾向があるということでしょうか。
TOEICはテストである以上、ルールがあり、似た型・テーマが出るのがお約束なのです。ですから公式問題集を繰り返すことで、質問と選択肢を見るとどのようなパターンかわかってくるんですね。例えるなら、手品のタネ明かしと一緒です。タネを知っていれば問題の手口が容易に見えてきます。
質問に「most likely」とあれば「恐らく」という意味なので「ズバッとは言いませんよ」というサインです。つまり、関係のある単語や語句を最初で言うか、それらを文全体にちりばめていますよ、という合図。
文章全体を追ってようやく「ああ、ここはレストランなのか」「ホテルなのか」と場所がわかるような文章だったり、「受付係だったのか」「旅行代理店の人だったのか」と人物が特定できるということですから、こういう難しい問題に初級者は安易に手を出さない方が無難ですよね。
また、「男性は何を提案していますか?」という問題の場合、「『提案』がある」のだと既に教えてくれているわけですから、「why don’t you~」や「You should」などと聞こえてきたら耳をすませればいいのです。選択肢を見ればそこに答えが書いてありますから。
リスニングで質問に関連した単語が聞き取れても、選択肢にそれがない場合もあります。例えば設問文で「architect (建築家)」という単語が聞き取れたが、選択肢にその単語はなく、「building designer」に言い換えられているようなケースです。
音声では「The power was out. (停電していた)」だったのが選択肢では「There was no electricity.」になっているとか。この言い換えに瞬時に気がつくかどうかが、730点を超えるか超えないかの違いです。公式問題集に取り組んでいると、こういうパターンがわかってきます。
英語力があるのにスコアが伸びない人はすべての問題に同じエネルギーを注いでしまいがちですが、TOEICは難易度が一問一問違うので、難しい問題はスルーし、易しい問題を落とさないのが大切です。全問正解はしなくていいのですから。リスニングならパート1は10問のうち8問正解すればよく、パート2~4は30問中20問取れれば730点は達成できます。
ビジネスマンはTOEIC730点の英語力と英語でのプレゼンスキルを
――英語が楽しく上達できるコツはありますか。
この人のように英語が喋(しゃべ)れたらいいな、というお手本を一人見つけることです。できれば自分と同じ性別で、声質や音域が似ているといいですね。海外のスターでもYouTubeなどでいくらでもインタビュー動画などを見ることができますから、その人になった気分で同じように喋(しゃべ)る練習をするのです。そうすれば英語特有の間や、アクセント、イントネーションなどもつかめるようになります。
僕は80年代に『ベストヒットUSA』で司会をしていた小林克也さんにあこがれましたね。当時、彼は洋楽最前線で、番組で欧米のヒット曲を紹介したり、マドンナなどの大物シンガーが来日するとインタビューをしたりしていました。
見かけは全くの日本人なのに海外のスターとも対等に話せるほど英語が堪能なので、一時は克也さんのようなDJやナレーターを目指しました。今も、ノラ・ジョーンズなどにインタビューしてみたいですね。バンドでコピーをしていたくらいビートルズも好きだったので、ポール・マッカートニーともぜひ直接話をしてみたいです。英語ができると楽しみが広がるんですよ。
――仕事で英語を使う機会のあるビジネスマンにアドバイスをお願いします。
ビジネスマンはこれから英語でプレゼンをする機会が増えると思います。ですからYouTubeで、様々な分野の人物がプレゼンを行うTEDというサイトを見て練習してもいいでしょう。
また、良いプレゼンの見本としてガー・レイノルズ氏もおすすめします。言葉と映像の両方を上手に使いますから、右脳と左脳の両方に入ってくるんです。TOEICで自分が必要なスコアを取得したら、あとはスコアを伸ばすことを目指すのではなく、プレゼンのスキルを磨くことが大切です。
これがあれば営業スキルが上がりますし、いいプレゼンは商品だけでなく自分も売り込めます。英語でプレゼンができれば、さらに可能性が広がります。世界に自分がつながっていける。考えただけでもワクワクしませんか?
■お話を伺った人
高橋基治さん。サンフランシスコ大学大学院修士課程修了。東洋英和女学院大学教授。TOEICに関し、17年に渡りTOEICの研究を行い、授業のほか講演活動、著作などでTOEICの得点を引き上げる効果的な勉強法を伝授。ノウハウの豊富さと熱い指導で高い人気を誇る。
■著書
聞いて覚える英単語キクタンTOEFL(R) TEST イディオム編(アルク)
新TOEIC(R)テスト スーパー模試600問(アルク)
TOEFL(R)テストリーディング・リスニングの解法 基礎編(アルク)
TOEFL(R)テストリーディング・リスニングの解法 応用編(アルク)
『これ、英語でなんて言う?』(中経出版) ※10月末発売予定
『TOEIC(R)テスト ムダな勉強はやめなさい! がんばっているのにスコアが伸びない人のための最速最短学習法』(小学館)
『TOEIC(R)テスト本番攻略模試』(学研/共著)他多数