名古屋のご当地コンビニといって、名古屋人が思いつくのが「サークルK」。サークルKは愛知県に本社をおくスーパーのユニーが親会社となって、1979年に第1号店を名古屋市に開店した。現在の出店数は全国で3,000店ほど。その内なんと半数が東海三県に集中している。というわけで、当然、名古屋人にとってなじみの深いコンビニといえばサークルK。そのため、東京あたりに行くと、サークルKの少なさにがくぜんとする。
地域に合った展開をしてこそ、お客さんにも喜んでもらえる
少し昔の話になるが、2002年、名古屋のコンビニ業界に激震が走った。最大手のセブンイレブンが、ついに名古屋へ進出してきたのだ。それまでの東海地方は、セブンイレブンの空白区。ゆえに、“いよいよ黒船が襲来か!”と、皆がドキドキしたものだ。それから約10年、セブンイレブンは東海地方で順調に出店を重ね、今やすっかり名古屋の街に溶け込んでいる。この状況をコンビニ各社、とりわけ愛知県をお膝元とするサークルKは一体どう思い、どんな対策を打っているのか? 早速サークルK広報に取材を申し入れた。
すると、東海エリアでの勢力維持のため、さぞ多くの戦略を打ち立てているかと思っていたわれわれの期待をよそに、のっけから肩透かし気味の回答が返ってきた。
「現在、弊社の店舗は全国にあります。そして、その土地土地で地域色を生かした展開をしています。ですから東海地区のみに注力している訳ではないのです」。
そう答えてくれたのは、サークルKサンクス広報IR秘書室の小田原さん。ふむ。考えてみたら、サークルKはサンクスと企業統合しているんだったっけ。
それでもサークルKの地盤が東海地方なことに変わりはない。食い下がって「名古屋ならではの取り組みって何かされているのですか?」と聞いてみる。すると、小田原さんとのやり取りの中から、意外な側面が見えてきた。
コンビニがあれば食卓も華やぐ
現在、コンビニ業界はおかずブームなのだそうだ。震災後の節電取り組みや家飲みブームなどが重なり、「家庭の台所支援」として、各社がこぞっておかずに力を入れている。手軽に食べられる夕食の一品として、また、晩酌のお供にと、コンビニのおかずが求められている。
サークルKサンクスでは、特に焼き鳥に力を入れているそうで、6月26日からは「ジャンボ豚串カツ」の販売も始めた。小田原さんは言う。「ソースは特製ソースとみそだれの2種類を用意しています」。
え? みそ? それは、みそカツってことですか? それこそベタベタな名古屋メシじゃあないですか! これは東海エリアだけの取り組みかと思ったら、なんと全国のサークルKサンクスで販売していくという。
しかし、プレスリリース(企業が対外的に発表する広報)を入手しても、「みそぐし かつ用のタレ」とサラリと書いてあるだけで、名古屋めしのナの字も表示していない。当の小田原さんも「それほど名古屋の味ということを意識してアピールしていません」と、こともなげ。
今や、ご当地お菓子がコンビニで買える時代
サークルKの持ち味の一つに、親会社であるユニーが中心となって開発しているPV(プライベート・ブランド)、スタイルワンの商品を豊富にそろえている点がある。また商品の仕入れにも、ユニーのチャンネルが生かされている。いかにサークルKサンクスの展開が全国規模であろうと、商品の品ぞろえには自然と名古屋色がにじみ出ているのだ。
その証拠に、サークルKのお菓子コーナーには、唐揚げチップス“手羽先風味”なる商品まで存在している。ことさら名古屋を強調しなくても、名古屋の味とセンスがさらりと根底に根付いているように見える。
「しるこサンド」というお菓子を例に取ろう。製造元は松永製菓という愛知県の会社だ。北海道産あずきがサンドされたビスケットで、ほんのりした甘さと塩加減が絶妙。名古屋で昔から愛されてきた定番のお菓子だが、当然、全国ではまったく無名だった。なんと、このご当地スナック・しるこサンドを初めてコンビニの棚に並べたのが、サークルKである。小田原さん自身「こんなにおいしいお菓子があるなんて知らなかった」と言う。
名古屋のローカルな味を、ことさらPRせずにさらりと全国区へ持っていっていったサークルK。今では他社のコンビニにもしるこサンドが並んでいるという。他にも、地元テレビ局とのタイアップで弁当を開発したり、地元有名ラーメン店の商品をカップめん化したりすることも多い。
また、サークルKサンクスが全国で取り組んでいる「MOT PROJECT」では、地産地消を活性化させるために、地元食材を使った商品の開発まで行っているという。
名古屋のローカルな食文化を、地元だけにとどめず、全国に広めていったサークルK。堅い「守り」の姿勢を貫くのではなく、名古屋の味を全国へ「発信」してきたのである。各地のサークルKに、あんかけスパゲティやきしめんが並ぶ日もそう遠くないのかもしれない。出張の多い名古屋人の私は、そう夢見るのである。
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