紅茶好きの口コミで、いま、静岡産の紅茶の人気が広がっていると聞く。静岡といえば言わずと知れた国内最大のお茶の生産県。全国の茶園面積の40%、紅茶産出額の39%を占める日本一のお茶どころだ。調べてみると、確かに日本の紅茶の生産量が増えている。静岡が関係ないわけがない。
地元の農産物を販売するお店、「リアルフードあくつ」主人の圷(あくつ)有恒さんに聞いてみた。
「オリジナルの紅茶を作っているところは増えてるよ。ざっと数えても10はあるんじゃないかな」。
ちなみに、緑茶も、抹茶も、ウーロン茶も、紅茶も、同じ茶の木から作られる。それぞれのお茶に適した種類はあるが、要するに摘んだあとの加工法が違うだけだ。
明治から引き継がれた伝統の味
静岡と紅茶の関係は、明治時代とともに始まったらしい。徳川の家臣に多田元吉(ただ もときち)という人がいた。元吉はインド北東部にあるアッサム地方を訪れた最初の日本人である。中国、インドを見て回り、各地の茶の栽培法や加工法を学ぶとともに、様々なお茶の種を持ち帰った。
その子孫の茶の木は、静岡の丸子(まりこ)でひっそりと生き続けた。その木の伐採の話が持ち上がり、その木を生かして紅茶を作ることに乗り出したのが、後に「丸子紅茶」を生み出す村松二六(にろく)である。
村松さんは何度もスリランカに行くなどして、茶の木の栽培法から紅茶の製造法、製造機械など全てに工夫と研究を重ねた。そして1989年から10年以上の歳月をかけ、「丸子紅茶」を誕生させたのだという。
世界に誇れる上品な味わい
丸子紅茶の中でも、紅茶通が「ダージリンの香り、アッサムの味」と絶賛する商品が「紅富貴」。花粉症対策で脚光を浴びている茶種「べにふうき」から作った紅茶だ。
この「べにふうき」は、元吉がインドから持ち帰った種子の血の濃い、それでいて日本の気候にあった紅茶用の木。「べにふうき」はヤブキタに比べると葉っぱが一回りでかく、堂々としてどことなく立派である。
JR静岡駅ビル内の地元産品を売る店では、「丸子紅茶」を筆頭に4種の静岡産紅茶を売っていた。とはいえ、地元の代表的なスーパーの売場には、静岡産の紅茶はない。静岡でもまだ限られた場所でしか買えないレアもののようだ。地元でも、これからのようである。
冒頭の圷さんのお店で、藤枝産の有機栽培の「和紅茶」を試してみた。ほのかな甘い香りと、あきらかに紅茶独特の味。それでいてすっきりクドくなく、後味が良い。緑茶のように何杯でも飲める。和食にも合いそうだ。
日本食は世界の味になっている。アッサム、ダージリン、ニルギリなどと並んで静岡の名前が並ぶ日が来るのも、そう遠くないかもしれない。