時代は既に64ビット。以前から32/64ビット版をリリースしているWindows OS(オペレーティングシステム)や、Mac OS Xも以前から64ビット化されています。その一方でソフトウェアにも、64ビット化の波が訪れていますが、まだ完全移行したとは言い難いのが現状。そこで一定の知名度を持ちながらも、64ビット化されていることを知られていないオンラインソフトや市販のソフトウェアを紹介します。64ビット版OSをお使いの方は是非ご覧ください。今回は悠久の歴史を持つ圧縮/展開ツール「WinZip」です。

20年の歴史を誇る圧縮/展開ツール

そもそもコンピューターにおけるデータ圧縮/伸長という概念は、ファイルの保存スペースを有効利用することを目的に生まれました。その後、パソコン通信など転送レートが著しく低い環境でのデータ送受信などを踏まえつつ研究が進み、進化し続けています。我々が何気なく使用しているJPEG画像も圧縮形式の一種。周りを見渡せば、コンピューターと圧縮/伸長技術は切っても切れない関係にあるのです。

日本国内では、1980年代末期に吉崎栄泰氏の「LHA」が普及しましたが、世界ではPhil Katz(フィル・カッツ)氏のPKZIPに注目が集まっていました。同氏は当初、当時の主流圧縮/展開ツールである「ARC」を高速化した「PKARC」を米PKWARE社から発表しましたが、ソースコード盗用問題など紆余曲折を経て、1989年に「PKZIP」を発表。当時の圧縮/展開ツールとしては速度や圧縮効率が優れており、シェアウェアながらも、あっという間にスタンダードの地位を築きました。

MS-DOS時代を過ごしてきた同氏は有名な反Windowsユーザーに数えられており、初のGUIバージョンは1991年1月にリリースしたOS/2向けの「PMZip 1.0」でしたが、数カ月後にはWindows 3.0上で動作する「WinZip 1.0」を発表。WinZipが現代に連なるに歴史の始まりです。現在ではWindows OSが「圧縮フォルダー」という名称でZIP形式をサポートし、Mac OS Xも標準サポートするように、世界中で使われるようになりました。

残念ながらKatz氏は2000年に逝去され、WinZipを販売していたWinZip Computingは2005年にCorelが買収。そのため日本国内でもWinZipはコーレル株式会社がローカライズや販売を行い、バージョン11ではパッケージ販売もされましたが、現在はダウンロード販売に限られています。最新版はバージョン16.5ですが、今回は日本語化されたバージョン16をピックアップしましょう(図01)。

図01 「WinZip 16 Standard」

長い歴史を持つWinZipはZIP形式だけでなく、数多くの圧縮形式をサポート。一部の圧縮形式は展開機能に限られ、さらに一部は支援プログラムをインストールすることでサポートしています。その他にもAES暗号化やFTPサーバーへのアップロードなど数多くの機能を備えています。

ここで注目しておきたいのは、Windows OSがサポートするのはZIP形式の一部であるという点。バージョン9.0以降のWinZipは、エントリを16EB(エクサバイト)で拡大した「ZIP64」形式を導入しています。この形式をサポートしているのはWindows Vista以降であり、Windows XPはエントリが65,535バイトに限られたZIP形式のみでした。このほかにもUnicodeに対するサポートやAES暗号化など、Windows OSの標準機能ではサポートされていない機能が数多くあるため、WinZipを改めて導入する意味は小さくないのです。

バージョン16.0から本格64ビット化

今度は64ビット化に目を向けてみましょう。バージョン11.1から64ビット版Windows OSに対応するようになりましたが、あくまでもシェル周りなど表面的な対応にとどまっています。

完全に64ビット化したのは、ちょうど今回取り上げるWinZip 16.0から。アプリ本体はもちろん、ZIPエンジンも64ビット化することでパフォーマンス面の向上も実現しています。このほかにもBlu-rayディスクへのダイレクト書き込みや各圧縮形式からZIP形式への直接変換機能などを備えました。ただし、日本国内版は、機能差を設けた「WinZip 16 Standard」「同Pro」と二つのエディションが用意され(海外版はより多くのエディションが存在します)、前述したBlu-rayディスク関連やバックアップ機能は後者のみの機能となります(図02)。

図02 64ビット版として稼働していることがバージョン情報から確認できます

ユーザーとしては、32/64ビットの差を意識せず使用できるWinZipですが、実際にその差を目にしないとアドバンテージを理解できないでしょう。そこで、Windows 7 32/64ビット版でWinZip 16 Standardを使用し、3GB(ギガバイト)のISO形式ファイルを圧縮/展開するために要した時間を三回計測し、その平均をグラフ化してみました。なお、圧縮形式は標準(Normal)を使用しています(図03)。

図03 32/64ビット環境による「WinZip 16 Standard」の圧縮/展開に要した時間(単位はミリ秒)

結果はご覧のとおり。圧縮は約六秒、展開は約七秒の差が生じました。圧縮/展開はプロセッサとディスクI/Oのパフォーマンスが大きく影響を及ぼすため、純粋に64ビット化されたZIPエンジンの性能だけを測るのは難しいですが、32/64ビット環境で数秒の差が発生しているのは大きいでしょう。

多くの圧縮/展開ツールが64ビットに対応し、ハードウェアの性能を最大限に引き出すようになりました。Windows OSの標準機能や32ビット版圧縮/展開ツールをお使いの方は、これを機に「WinZip」など64ビット化した圧縮/展開ツールへの乗り換えをご一考ください。

阿久津良和(Cactus)

WinZip 16 Standard/Pro

作者:コーレル
ジャンル: 圧縮/展開ツール
価格:3,800円(Standard版)/6,400円(Pro版)