『怪談新耳袋』における新しい恐怖表現
――井口さんはTVシリーズの『怪談新耳袋』でも、髪を振り乱し激しく頭を動かす幽霊など、新しい描写に挑戦しました。今回の『異形』では、映像的に新しい描写に挑戦されたのでしょうか。
井口「Jホラーがやってきた見せない恐怖の歴史というものがありますが、今回は逆に堂々と出てきたらどうなるのかを試してみました。最初は姿を見せないのですが、一度姿を見せたら、その後はモンスター映画のようにバンバン姿を見せて暴れまくる、というのをやってみました」
――恐怖表現に関して、限界を感じるような部分はありますか。
井口「それはないですね。恐怖は新耳袋のような幽霊や怪談でなくても、日常の中で転がっていると思うんです。今の日本で普通に生きていても、いつどうなってしまうかわからないですし。そんな恐怖を映画の中でこれから描けるかもしれないと考えています」
――今回、全話で主演を務めたアイドル スマイレージに関してはいかがでしたか。
井口「スマイレージの皆さんは、この映画が初演技という方も多くて、笑顔でいることが基本という方々なので、笑顔なしで演技してもらうというのがとにかく大変でしたね。アイドルとして、無意識でも自然と笑顔が出てしまうので、緊張感を持ってやってくれということは強くお願いしました。怯えながら歩いて、何かを見て悲鳴を上げるというような特訓まで撮影前にしました」
――ホラー映画であると同時に、アイドル映画としても成立している作品だと思うのですが。
井口「そうですね、アイドルとホラー映画は相性が良いと思うんです。アイドルが怖がっている姿って魅力的ですし、それを見てさらに恋してしまうってあると思うんですよ。今回は、演技や声のトーンも、それぞれのメンバーのキャラクターに合わせて演出しました。各話メンバーごとに違いも出したので、スマイレージのファンの方には、そこも楽しんで欲しいですね」
――アイドルとはいえ、後半では、かなり悲惨な目に遭ってますよね。
井口「そうですね。悲惨な描写に限らず、極端な口のアップ、あえて悲鳴で顔を歪ませる、アイドルの足越しのショットなど、アイドル描写としてはご法度のアプローチを今回の映画では、自由にさせていただいたので、ご本人たちや事務所には感謝しています」
――井口監督は、この作品をどのように楽しんで欲しいですか。
井口「スマイレージのファンと、新耳袋のファンで見方は変わると思うのですが、言葉にできない物を映像で見るという行為を楽しんで欲しいですね。最近は、共感しやすいものとか、わかりやすいものが受けていますが、わからない部分を頭で補完して楽しむという楽しみ方が映画にはあると思うので、そういう楽しみ方をして欲しいですね。スマイレージのファンの方には、アイドルの今の姿、彼女たちの青春を映像に残したアイドル映画としても楽しんで欲しいです」
新たなジャンルにも挑戦したい
――これから井口監督は、どのような作品を作っていくのでしょうか。
井口「現在、色々な企画を出しています。ホラーや特撮ものもあるのですが、最近はやったことないジャンルを撮りたいという欲が出てきています。まずは、江戸川乱歩と谷崎潤一郎をミックスしたような耽美物を考えています。苦い青春ものも企画しています。今は、人間の内側に深く入っいくような作品をやりたいですね。いつかは『わさお』みたいな動物映画も撮りたいんですけど(笑)」
――最後に井口監督といえば、ほとんど全裸に近いふんどし一枚の舞台挨拶姿が有名ですが、今回はスマイレージの横にふんどし姿で立つ井口監督が見れるわけですね。
井口「スマイレージの事務所とファンが許してくださるなら、いつでもふんどしになります!」
映画『怪談新耳袋 異形』は2012年8月11日より、シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー。
撮影:国領雄二郎