7月26日、民間救急サービスを手掛けるA'ZUMAによる「民間救急(車)サービスについての説明と車両見学会」が開催された。現在、民間救急サービスは、多くの地方自治体で導入されている。東京都では2004年10月より、全国に先駆けて制度を開始。制度導入の背景には、ある「大きな社会的問題」があるという。
低モラル利用者が救急制度を崩壊させる!?
東京消防庁によると、2010年度の救急車の出場(119番通報を受けて現場に向かう意味の消防業界用語)件数は約70万1,000件、ほぼ45秒に1回のペースである。
「救急隊員の方に話を聞いたところ、24時間の勤務時間中、署内に居られたのが19分という日もあったそうです。当然、まともに食事は摂(と)れず、仮眠も不可能ですね」と、同社の代表取締役社長、荒井昭博氏。
こうした異常な状況を生み出す大きな要因のひとつが「救急制度利用者のモラル低下」である。東京消防庁の調査では、2010年度の総患者搬送数およそ61万8,000人において、入院などを必要としない「軽症」が55%近くとなる約34万人だった。
モラルの低い利用者たちは、人命を脅かす存在にもなる。都内に配備されている救急車には限りがあり、"彼ら"のところに行っている間、その近隣の"本当に救急車が必要な人"は、遠方からの到着を待つ以外ないからだ。
さらに、彼らの行為は自治体の財政にも影響を及ぼす。東京都が試算したところ、2002年の救急業務に要した支出は年間約285億5,200万円で、救急車が1回出動するたびに約4万5,000円もの費用がかかっているという。
人命と財政を救うべく誕生した民間救急制度だが問題も
以上のような問題解消の一手段として発足された民間救急だが、具体的な制度はどのようになっているのか。同社の民間救急サービスセンター長、清水栄氏はこう語る。
「正式には『民間患者等搬送事業』と呼ばれ、消防庁の指導基準にもとづいて提供される有料サービスです。救命を主眼とした消防救急活動に対し、民間救急は緊急性の少ない方について、入退院や通院、転院ほかさまざまな移動手段を提供しています」
こうしてみると、まるで救急車と変わらないように見えるが、その業務内容は大きく異なる。
まず、民間救急サービスに使用される車両は緊急自動車ではないため、サイレンや赤色灯が装備できない。そのため、道交法上は一般車両となり、優先走行ができないのだ。
また、原則、医療法や医師法に抵触する医療行為を行うことも不可(看護師は定められた範囲で可能)。さらに1時間程度の搬送で1万円程度になることも珍しくない利用料金などもあり、世間一般への普及・認知にはまだ時間がかかりそうだ。
フレキシブルなサービスでさまざまなシチュエーションに対応
こうした状況下ではあるが、「消防庁認定の民間救急、患者搬送サービスとして30年の歴史」を持つ同社は、常にサービスを進化させながら、あらたな展開を模索し続けている。
例えば、同社のきめ細やかなサービスのひとつとして荒井社長は「BED to BED」を挙げる。
「料金的に安い介護タクシーなどと異なり、患者を搬送するためのストレッチャーや担架を配備しているので、自力で立って歩けない方や、医療機器などを体に装着している状態でも安心してご利用いただけます」
また、病院等への搬送だけでなく、治療やリハビリのための温泉地への搬送や、病気・けが等で動けない状態での引っ越し、立って歩けない高齢者を含む家族旅行など、体に不安のある方のあらゆるシーンを考慮した、フレキシブルな対応も見逃せない。
「当社のサービスはお客さまのニーズから生まれます。現在3台の車両を保有していますが、利用者の方が落ち着いた気持ちで過ごせるよう、内装を木目調のデザインにしたり、大人数での移動が可能な、マイクロバスを大々的に改造した定員10名の大型搬送車など、いずれも随所に創意工夫を施した1台となっています」
利用は基本的に予約制となっており、「3日前であればほぼ大丈夫です」とのこと。また、事前予約の段階で「どういったリスクのある患者か」などの情報から、必要なスタッフ、医療機器、応急処置用具、近隣の病院・消防署の連絡先など最善の事前準備を行うという。
こうした対応のおかげで、これまで搬送途中に問題が起きたことはないとのこと。
同社の民間救急サービスは、急を要さない病人の搬送や病院間の転院はもちろん、「こんな使い方ってありかな?」というリクエストにも親身に応えてくれるだろう。
【関連リンク】 |