いまだに激しい争いが続いているAppleとSamsungの訴訟だが、その副産物として、Apple側から提示された資料の中で明らかになった「プロトタイプ版iPad」の存在がクローズアップされている。iPhone開発よりさらに早い2000年代初めに作られたプロトタイプは、ソフトウェア的には現行のものを先取りしている一方で、サイズは初代iPadに比べても大幅に厚く、一回り大きいものだったようだ。
この件を報じているのはNetwork Worldだ。Steve Jobs氏は2010年に開催されたAll Things Dカンファレンスのインタビューの中で、プロトタイプ版iPadの存在に触れていた。このインタビューの話題は近年のApple最大のヒット商品であるiPhoneの誕生秘話についてだったが、その原型はタブレットにあったのだという。現在一般的な「ガラススクリーン」「指でのマルチタッチ」のアイデアを同氏が持っており、これをエンジニアに説明したところ、半年後に最初のサンプルが上がってきたという。Jobs氏はこれをすぐにUI担当の人間に渡し、今日iPhoneやiPadで実装されているような(ゴムバンドのような感覚の)スムーズスクロールなどを実装したソフトウェアが出来上がったようだ。
すぐに同氏は「これは携帯にも応用できる」と直感し、いったんタブレットの開発を保留したという。Network Worldでは、iPhone登場前の「ROKR」というMotorolaとの共同プロジェクトの話題にも触れており、既存の携帯電話の延長線上にあるUIにJobs氏はすでに限界を感じており、ROKR発表当時にすでにAT&TなどのパートナーにAppleの携帯電話独自開発プロジェクトの話を持ちかけていたようだ。
この"iPadプロトタイプ"の存在は、前述のようにApple対Samsung裁判の過程で提出された資料の中に記されており、デザイナーのJonathan Ive氏もその存在を認めている。プロトタイプの名称は「035」と呼ばれ、2002年から2004年の間にかけて開発が行われていたようだ。iPhoneは開発に2年以上の月日が費やされたとされているが、発売が2007年6月だったことを考えれば、2005年にはすでにプロジェクトがスタートしていたことになる。つまり、プロトタイプ版iPadはちょうどiPhone開発がスタート直前まで継続されていたことを意味する。
裁判に提出された資料でこのプロトタイプの全容が公開されているわけではないものの、写真の数々からその概要がうかがえる。全面フラットスクリーンで、フロント部分に余分なボタンがないデザイン("ホームボタン"さえない)、さらに背面のAppleマークなど、現在のiPadの基本コンセプトはすでに2000年代初期にできていたことがわかる。一方で本体は非常に厚みがあり、薄さをアピールする現在のiPadに比べれば、技術的にはまだまだ成熟していない印象を受ける。これは、"035"のモックとiPadを比較したBuzzFeedの画像を見れば一目瞭然だ。サイズは一回りほど大きく(画像を確認すると2割程度か)、厚みにいたっては3倍程度も厚い。当時のiBookが現行のMacBookを厚みや重量で上回っていたことを考えれば、サンプルとはいえ"035"もまた携帯するには少々重量が大きく、2009年のiPad発売まで5年の技術の進化のすごさを改めて感じさせる。