国際労働機関(以下、ILO)はこのほど、報告書「ユーロ圏における仕事の危機:動向と政策対応(Eurozone job crisis: Trends and policy responses)」を発表した。同報告書では、ユーロ圏の失業者数は、今後4年間で現在の1,740万人から約2,200万人に増大する可能性があると指摘している。

2012年4月時点におけるユーロ圏の平均失業率は11.0%に達し、特にギリシャやポルトガルなど南欧において深刻な状況となっている。若年層(15~24歳)に限って見た場合、2010年以降、ユーロ圏17カ国の半数以上で失業者が増大し、300万人以上が失業、平均失業率は22.2%に上る。さらに、生産年齢人口の3分の1を超える人が失業中、あるいは非労働力化しており、長期失業も増加している。

若年者(15~24歳)の失業率(出典:ILOWebサイト)

一方、2008年以降、就業者数が増加しているオーストリア、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルク、マルタなどの国でも、労働市場の回復が頭打ちになる兆候が見られ、「景気好転を期待して労働者を維持し続けた企業も持ち応えられなくなる可能性がある」(ILO)。

加えて、様々な証拠が労働市場の不振が長引く危険性を示しており、このような雇用情勢は単一通貨の持続可能性を脅かすと同時に、社会不安を煽り、銀行や金融制度、各国政府、欧州諸機構に対する信頼感を損ないつつあるという。

フアン・ソマビアILO事務局長は、実体経済への投資を増やすなど、対象を定めた措置が講じられない限り、「経済危機は深化し、雇用回復が発進することはない」と警告。この問題はユーロ圏だけでなく、世界経済全体に波及する恐れがあるとした上で、「仕事を集中的に生む成長とグローバル化に向けた新たな路線に関する地球規模の合意が必要。それを率いる主な責任は国連、ブレトンウッズ体制、主要20カ国・地域(G20)にある」としている。

さらに、緊縮財政が経済成長を弱めて、銀行の財務事情を悪化させ、さらなる貸し渋りや、投資削減、雇用喪失の増大をもたらす緊縮財政の罠に陥っていると指摘。この罠から抜け出す政策として、「小企業への融資再開を条件とした金融制度の修復」、「若者を中心とした求職者の支援と投資促進」、「ユーロ圏諸国間の競争力格差への取り組み」の3点を提案している。

報告書の中心的著者である国際労働問題研究所のレイモン・トレス所長は、「各国の立場が違う以上、協調戦略に合意するのは簡単ではないかもしれない」と認めつつも、「労働者と企業の信頼と支持を再び得る方向に政策を速やかに転換しないことには、ユーロ圏を安定と成長の道に戻すために必要な改革を実行することは難しいだろう」としている。

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