狂気に満ちたコンセプトで映画界を震撼させたカルトムービー『ムカデ人間』にまさかの続編が登場したぞ!

……といっても実は『ムカデ人間』は3部作だということがあらかじめ予告されていたため、続編の公開自体に特別驚きはない。だけど、「どういう続編を作ってくるのか」というところには興味津々だった。前作のレビューはこちら

『ムカデ人間2』

何しろ『ムカデ人間』は、人間の口と肛門を手術で縫い付けるという頭のおかしいワンアイデアだけで乗り切った映画であり、その続編ともなればファンの期待値も否応無しに上がるというものだからだ。そんなファンの思いに奇才トム・シックス監督がどう応えたのか、ワクワクしながら見てみることにした。

舞台はロンドン。地下駐車場の警備員として働く醜く太った中年男のマーティンは、映画『ムカデ人間』の大ファンだった。映画に登場するムカデ人間に異常な興奮を覚えた彼は、自分も人間をつなげてムカデ人間を作りたいという強い思いに囚われるようになる。そしてついに彼は行動を開始する。マーティンの手によって次々に拉致されてくる哀れな被害者たちの中には、臨月の妊婦までいた。さらにマーティンはもう一つのおそるべき計画を進めていた。それは、映画『ムカデ人間』に出演した3人の出演者たちを拉致する計画だった――。

……ということで結論からいうと、残念ながら前作ほどのインパクトは今作にはなかった。もちろんスケールは前作よりもパワーアップしているのだけど、逆にいえば"スケールがアップしているだけ"で、やっていることは前回と同じなのだ。

『ムカデ人間』が衝撃だったのは、そのコンセプトが狂っていたからであり、決して残虐描写が凄かったとか、絵としてのインパクトがあったからとかではない。続編として難しいのはこの部分で、前作と同じことをやったのでは、それがいくらスケールアップしていても前作ほどの新鮮な驚きは得られないのである。いわば本作『ムカデ人間2』は"守りに入ってしまった"のだ。せっかく前作で「この映画、狂ってる」という評価を得たのだから、今作でもファンの予想を斜め上に裏切り、「そうきたか!」と思わず膝を打つようなストーリーにしてほしかった。逆にいえばそれだけ前作はすごかったということなのだけど。

特に残念だったのは、今作の主役ともいうべき狂気の男・マーティンに、前作のハイター博士のような美学が感じられなかったことだ。精神的な発達障害を持つ彼は自らの欲望のままに動き、気に入らなければ拉致する前に殺してしまう。誰を選ぶかとか、どんな風につなげたいとか、そういったこだわりが見えず、とにかくたくさんの人間をつなげたいという欲望のみに従って行動するのである。たしかに12人という数字にはインパクトがあるが、人数が多くなるということは、それだけ集まった一人ひとりへの思い入れが少なくなってしまうということでもある。尺の問題もあるので難しいとは思うが、観客が本気で感情移入して「やめて!」と思わず叫んでしまうような、そんな深い人間描写があと一歩欲しかった。ついでにいうと、「殺す」という行動の意味が前作よりもだいぶ軽くなっている気がして、それも「何だかなぁ」と思った。生と死、そのギリギリの狭間で作り上げられる狂気の生命体・ムカデ人間をテーマにしているからこそ、安易に「殺す」という選択肢を選ばせない方が物語がもっと重厚になると思うのだ。

また、残虐描写が前作よりも明らかに増えている点についても、"狙った雰囲気"を感じてしまった。特に今作はマーティンが医師ではないため、繊細な手術ができない。それどころか、麻酔もせず、手術器具の代わりに工具を使うという有様である。どんな悲惨な現場になるかは推して知るべし、だ。この手の映像が好きな人は満足できるかもしれないが、そうでないならかなりキツイ。僕は『ムカデ人間』シリーズに関してはあまり残虐方向に寄らず、コンセプトを洗練していってほしいと思っていたので、続編がそっち側にシフトしたのはやや残念に感じたというわけだ。

とまぁ色々と書いたが、今回が初見だという人には充分すぎるインパクトがあると思うし、主演のローレンス・R・ハーヴェイの怪演はお見事だった。また、詳しくは書かないが、ムカデ人間ならではの"あのシーン"についてもかなり演出がパワーアップしており、ここは一見の価値がある。これはやはり「口と肛門を縫い付ければムカデになるぞ!」というシリーズのコンセプトがよくできているからだろう。

もし、シリーズ完結編として『ムカデ人間3』が製作されるのであれば、次はぜひムカデ人間というコンセプトはそのままに、ファンをあっと驚かせるような設定と展開を期待したいと思う。大丈夫、トム・シックス監督ならできるはずだ。だって何度も言うようだけど、「口と肛門を縫い付ければムカデになるぞ!」なんていう発想は、真っ当に生きていたらまず思いつかない天才の発想なんだから。

『ムカデ人間2』は、7月14日(土)より新宿武蔵野館で公開。