さまざまな業界の漫画通が選ぶ「このマンガがすごい!」。掘り出し物を発見するのに重宝しているという漫画ファンも多いと思いますが、そこで選ばれた作品がネットで手軽にレンタルして読めるってこと、ご存じでしたか?
電子貸本サイト「Renta!」では、最新の「このマンガがすごい!2012」で受賞した作品がいくつもラインナップに入っており、どれも漫画好きならおさえるべき秀作ばかり!
今回はその中から、筆者の独断と好みと情熱で3作品をピックアップしてみました。紹介文を読んでピンときたら、もう間違いなし! ぜひ読んでみてください~。
竜の学校は山の上
ウェブや同人誌即売会で作品を発表し、注目を集めている期待の新星・九井諒子の初の作品集。短~中編を9作収録しており、そのどれもが面白いのです!
全作品に共通しているのは、世の中の事象を斜め上から見下ろしたような九井諒子独自の視点。ひねくれた……というと言葉は悪いのですが、「そこに切り込みますか!」と思わず唸ってしまうような鋭い視点には脱帽してしまいます。
たとえば表題作である「竜の学校は山の上」では、竜が当たり前のように存在すること以外は現代とまったく変わらない日本を舞台に(この時点でもう色々とすごい!)、竜研究会に所属する大学生たちの日々を綴っています。竜はかつて交通や運搬、食用、農耕などに広く活用されてきた生き物だったのですが、機械や工場にその役目を取って代わられ、今では保護の対象になっているという有様。竜研究会の面々はそんな竜を現代日本において生かす方法を探るべく、日々活動を続けているというわけです。
現実にはいない竜という存在を現代の日本という舞台に投げ込むとどうなるか――本書に収録されている作品は基本的にすべてこの表題作と同じ手法を用いており、フィクションを前提としてそこに現実感を載せていくことで、妙な説得力とリアリティを生み出すことに成功しています。
他にも、魔王を倒した勇者が故郷の村に帰ってきてからの話を描いた「帰郷」や、魔王亡き後の魔王城をどうするかという問題を描いた「魔王城問題」、はたまた翼を持ち空を飛ぶことのできる翼人と、猿人(要するに普通の人)が、軋轢を抱えながらも現代の日本で共存する様を中学生の視点で描いた「進学天使」など、どれ一つとして面白くない作品がないという奇跡のような短編集。しんと静まりかえった夏の夜に、できれば一人で、コーヒーでも飲みながらゆっくりと味わって読んでみてほしい一冊です。
めしばな刑事タチバナ
星の数ほどあるにも関わらず、それでもまだまだ新しくて面白い作品が生まれ続けるのがグルメ漫画というジャンル。日本人の食に対するこだわりには舌を巻く思いですが、「この漫画がすごい!2012」で取り上げられた「めしばな刑事タチバナ」もまた、そうしたグルメ漫画の新たな金字塔になり得る作品なんじゃないかと感じました。
主人公はぐうたら刑事の立花。取調室で彼が犯人に対してするのはただ一つ、飯の話! それも単なるグルメ話ではなく、「富士そば」や「吉野家」「松屋」といった日本人になじみ深いチェーン店グルメのうんちくばかり。だけど、だからこそ皆の心にヒットするんですよね。もちろんミシュランで星がつきそうな高級グルメ漫画や、自炊グルメ漫画なんかも面白いのですが、それとはまったく別の方向から攻めてきたこの「めしばな刑事タチバナ」は、まさに発想の勝利といったところ。いわばグルメ漫画界のこち亀といったところでしょうか。
チェーン店の「飯屋」をよく利用する人には「あるある!」と頷いてしまうネタも多く、話の種にするのにもぴったり! 自炊派の人にとっても、世の中のチェーン店の現状を知ることができるという意味でとても有意義な作品だと思います。
はたらけ、ケンタウロス!
ケンタウロス。それは馬のような下半身を持つ半人半馬の架空の生物。そんなケンタウロスが人間社会に当たり前のように暮らしていて、トラブルがありつつも何だかんだでうまく共存共栄している世界。そんな世界観の現代日本を舞台に繰り広げられる愛と友情と、その他色々な物語が「はたらけ、ケンタウロス!」です。
なんといっても、虚構なのにリアリティのある設定がすばらしい。たとえばケンタウロスは人間よりも寿命が長く働き者なので、人間から職を奪う恐れがあるとして法律が改正される恐れが出てきた――など、見方を変えれば現代でも起こり得そうなシチュエーションがいくつも登場し、読んでいるうちに「この社会には本当にケンタウロスが存在していて、人間と共存しているんじゃないか」という気にすらさせられてしまうのです。それはひとえに作者である"えすとえむ"の筆力の高さあってのことなのでしょうけど。
ちなみにほんの少しだけBL要素あり、です。といっても味付け程度なので、苦手な人でもまったく問題はないと思いますけどね。