今週はWindows 8の公式ブログである「Building Windows 8」ではなく、米国で発表されたタブレット型コンピューター「Surface(サーフェース)」を取り上げる。以前からハードウェア分野にも強いMicrosoftだが、自社製コンピューターを発売するのは初の試みだ。Windows 8やWindows RTの普及にどのような影響を与えるのか関心を集めている「Surface」の内容や、同社の意図を分析する。
Windows 8レポート集
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自社製タブレット型コンピューター「Surface」登場
本誌でも報じられているとおり、Microsoftは米国時間6月18日に行われたプレスイベントで、Windowsタブレット型コンピューター「Surface」を発表した。当時筆者は別の案件に忙殺され、本情報を知ったのは知人からインスタントメッセージ。その知人が述べた"Surface"という単語を聞いた筆者は、当初テーブルにコンピューターを埋め込んだSurfaceを連想してしまった(図01)。
各所で報じられているとおり、旧Surfaceは「PixelSense(ピクセルセンス)」に改称している。この理由として考えられるのが、Surfaceという単語が持つ"表面や水面、地面"といった意味にフィットするのが、PixelSense(旧Surface)よりも今回のタブレット型コンピューターだと同社は判断したのだろう(図02)。
Surfaceのスペックや機能は前述のリンクをご覧いただくとして、本レポートでは別の角度からSurfaceの注目ポイントを取り上げる。そもそも、Microsoft自身がハードウェア分野に着手するのは珍しいことではない。現在も発売されているキーボードやマウスはもちろん、PCゲーム用コントロールデバイス、ジェスチャーや音声認識デバイスであるKinect for Windowsやコンシューマゲーム機器のXbox360と枚挙にいとまがない。
だが、コンピューター本体をリリースするのは、長い歴史を持つ同社でも初めてだ。二年前の2010年頃には、二画面タブレットデバイス「Courier(クーリエ)」のモックアップが流出したが、SNS(ソーシャルメディアサービス)向けスマートフォン「KIN」と同じように、パートナー企業にハードウェアを委ねる予定だったのだろう(KINは2010年7月に開発終了。Courierは公式発表にも至っていない)。
だが、今回同社はARMプロセッサを搭載する「Surface for Windows RT」と、Intelプロセッサを搭載した「Surface for Windows 8 Pro」の二種類を自社製品として用意。Windows 8専用に新規設計したハードウェアで構成されており、カスタムパーツは200アイテム以上だという。確かに単なるMicrosoftブランドを付けたコンピューターではないようだ。Windows ARMからWindows RTへ改称したあたりから興味を失った筆者ですら購買意欲を刺激される(図03)。
個人的には「Surface for Windows RT」に備え付けられた脱着式のカバー型キーボード「Touch Cover」の打鍵感や、本体サイズが気になるところだ。本体の厚さは9.3mm、重量は676gとライバル関係にあるiPadのサイズを少し上回る程度。「Surface for Windows 8 Pro」は、従来のデスクトップアプリケーションも動作するが、本体の厚さは13.5mmに、重量も903gに増えているため、モバイルマシンとして持ち歩くのは少々抵抗がある。
それでも、これまでノート型コンピューターが担っていた役割を背負えるだけのクオリティは保持していそうだ。強いて競合製品を列挙すれば、「Surface for Windows RT」はiPadやAndroid採用タブレット型コンピューターであり、「Surface for Windows 8 Pro」は薄型軽量のノート型コンピューターであるUltrabook(ウルトラブック)がそれに当たるだろう(図04)。
自身が旗艦を演じなければならないMicrosoft
このように「Surface for Windows RT」と「Surface for Windows 8 Pro」は興味深いマシンに仕上がっているが、一つ懸念材料が残されている。それは、Microsoftがこれまで蓄積してきた強みを打ち消してしまうのではないか、という点。そもそも同社はハードウェアベンダーと密接なコミュニケーションを取り、現場から上がったフィードバックを適切に対応してきた。
その結果、膨大ともいえる対応ハードウェアの数を誇るようになり、圧倒的なシェア(占有率)を保持するようになった。パワーバランスを踏まえると適切ではないが、Microsoftとハードウェアベンダーは両輪の関係にあったと述べてもいいだろう。しかし、OSやソフトウェアが主力製品であるMicrosoftが、周辺機器ではなくコンピューター本体をリリースするということは、既存のハードウェアベンダーと敵対関係になる可能性があるということだ。本誌を含める各媒体の記事を俯瞰(ふかん)すると、おおむねハードウェアベンダーは困惑しているように見て取れる。
以前同社は、2012年当初から開発途中のWindows RTを各ハードウェアベンダーに提供開始したと公式ブログで述べていたが、うがった見方をすればWindows RTを採用するハードウェアベンダーが少なかったのではないだろうか。この点が明らかになることはないだろうが、Windows 7など以前のWindows OSと互換性があるWindows 8/8 Proはこぞって採用しても、Metroアプリケーションのラインナップが成功を左右するWindows RTを積極的に採用するハードウェアベンダーが連なる可能性は低い。そのため同社がフラグシップを演じ、Windows 8/RTの普及に一役買わなければならないのだろう。
「Surface for Windows RT」は、今年秋ごろにリリースされる可能性が高いWindows 8/8 Proと同じタイミングで登場し、同社の直営ショップやオンラインサイト経由で販売を開始される(「Surface for Windows 8 Pro」はその90日後)。価格設定にもよるが、ハードウェアベンダーが購入するOSのライセンス料金を踏まえると、各ハードウェアベンダーが「Surface for Windows RT」の後塵(こうじん)を拝する可能性が高い。同時に売り上げの初速もよい線を狙えるはずだ。
問題はその後に連なる各ハードウェアベンダーとの協力体制。この件で困惑や不満を覚えた各ハードウェアベンダーと、Microsoftとの温度差をどのように埋めるかが、Windows RTの成功を左右する鍵となるだろう。
阿久津良和(Cactus)