パイオニアが7月に発売する「カロッツエリア サイバーナビ」の「AVIC-VH99HUD」を搭載した実車を運転してきた。AVIC-VH99HUDは、「AR HUD(ヘッドアップディスプレイ)」ユニットが標準装備されているモデルだ。

「AR HUDユニット」を標準装備する「カロッツエリア サイバーナビ」の「AVIC-VH99HUD」

AR HUDは、とにかく新しいシステムなので、実際に運転しているときにどのように見えるのか、使い勝手はどうなのか……気になる人も多いのではないだろうか。試乗したコースは、東京・銀座にあるパイオニアのショールームからお台場までで、首都高に乗って走ってみた。

AR HUDユニットは、車のサンバイザーの部分に取り付けられている。まず、エンジンをスタートすると、ナビのモニターがチルトアップし(※)、AR HUDも表示を開始する。

なお、試乗車では、運転席側と助手席側とにAR HUDが取り付けられていた。これはあくまでも乗車体験用の特別仕様であり、製品版ではAR HUDユニットは1台しか取り付けることはできない。この記事で掲載されている写真は、すべて助手席側から撮影したものであることを断っておく。

※AVIC-VH99HUDは1DIN+1DINタイプのナビで、上側のユニットにディスプレイが搭載されている。電源を入れるとディスプレイ部がチルトアップするスタイルとなっているが、これを同社ではインダッシュタイプと呼んでいる。一般的には、インダッシュタイプのディスプレイというと、2DINサイズのナビで、フロントパネルのほぼ全体をディスプレイが占めている形態をいうことが多いが、同社ではこれはAV一体型ナビと呼んでいる。いずれにせよ、一般的に言われるインダッシュ方式に比べると、同社のインダッシュ方式のほうが、視線移動が少なくて済む。オンダッシュタイプと同等の視認性だ。

【写真1】シンプルなAR HUDの表示

上の【写真1】を見てもらえば分かるように、表示内容はナビ本体のディスプレイに比べると、かなりシンプルだ。中央に表示されているバーは、現在進行中のレーンを示している。その左にある「4.7km」という数字と矢印は、この先の進路だ。つまり上の写真では、「まっすぐ走って、この先4.7kmで右に曲がれ」という指示を受けていることになる。

バーに重なるように見えるアーチ状の部分は、コンパスリング。赤のとがった部分が真北を指している。左下に表示されている「15:41」は、想定される到着時間。右下に表示されている「38m」という距離は、前方の車との車間距離だ。

【写真2】交差点の近くに来ると、その交差点の名前と曲がる方向が表示される

【写真3】交差点での停止時には、その交差点からの進路情報が表示される

また、【写真2】のように、曲がるべき交差点の手前では、一番上に交差点名と交差点までの距離、左右どちらに曲がるべきかを表示。交差点での停止時(【写真3】)には、その交差点を中心とした進路表示も行われる。高速に入ると、ジャンクションでの進行方向と、そこまでの距離などが表示される。これは、高速での行き先案内板のような表示だ。

【写真4】AR HUDの情報が、前を走る車に重なっているように見えるが、これは撮影する都合上AR HUDユニットの角度を調整しているためだ。本来使用すべき位置にAR HUDユニットを調整すると、表示はもっと上方で行われる

今さらの説明で恐縮だが、掲載している写真は、AR HUDユニットの角度を変更して撮影を行っている。例えば、上の【写真4】では前を走る車に重なるような形で表示が行われているが、運転席側の視界ではAR HUDでの映像はもっと上にある。AR HUDユニットの角度によっても変わるが、だいたいルームミラーよりも少し上ぐらいが標準的な位置だ。

また、AR HUDの表示は少し右側にオフセットされている。これはおそらくこれは右ハンドル車用のセッティングだと思われる。助手席側に付けたAR HUDユニットでは、情報が左寄りに表示されているようだ。

【写真5】AR HUDの表示は、だいたい3m先に見える。コンパスリングの幅は約70cmといったところ

写真では、AR HUDユニットの部分に情報が表示されているように見える。これは、カメラで撮影したためであって、実際もそのように見えるわけではない。AR HUDの映像は、フロントガラスよりももっと前方に表示されているように感じられる。試しに停車して、AR HUDで投影されている表示があると感じられる辺りまでの、おおよその距離を計ってみた。すると、運転席のドライバーの視点位置から4歩ぐらい、約3m弱の位置に表示されているようであった。その際の表示サイズは、写真の上の方にあるコンパスリングの部分がだいたい70cm幅ぐらいといったところだ。

筆者はこの辺りの地理に疎いわけではないので、だいたいの道筋は理解している。しかし、筆者の頭の中にあるルートとはまったく関係ないルートをナビが示してくるので、当初は少し混乱した。しかし、混乱したのは最初の1~2分といったところだろう。

実際に車を運転していると、視点がどこかを一点を注視するということはなく、前方や、サイドミラーからの視界を俯瞰的にチェックしているという感じになる。AR HUDでは、前方の実際の情報とナビが表示する情報を、視線を移動せずに把握できるのだが、慣れてくると、AR HUDからの情報もフロントガラス越しの前方視界やサイドミラーからの情報と同じように自然に頭に入ってくる。新鮮な感覚だ。

【写真6】【写真7】ほぼ同じ場所での、ナビ本体(左)とAR HUD(右)の表示の違い

これには、AR HUDの情報の絞り込みというのが、大きく影響しているのだろう。一般的なナビでは、とにかく表示される情報量が多い。詳細な表示が便利なこともあるが、運転のように瞬間的な判断を求められる場合には、膨大な情報量がかえって邪魔になることも多い。例えば、上の左写真(【写真6】)のように本体側で表示されている時、AR HUDの表示は右の写真(【写真7】)のようになっていた。

今回の試乗で、目的地の指定などを除けば、本体側のディスプレイに視線を移すことはほとんどなかった。AR HUDに表示される情報のみで、問題なく運転可能というわけだ。

あくまでもAVIC-VH99HUDのメインの表示デバイスはナビ側のディスプレイで、AR HUDユニットは、それを補佐するためのデバイスだ。しかし、AR HUDの使い勝手のよさを考えると、こちらをメインにしたモードというのもあってもよいように思えた。

東京・銀座にあるパイオニアのショールームでは、AR HUDを体験できる機材が置かれている