6月7日、首都高速道路株式会社が毎年、定期的に行っている「首都高施設安全月間」の一環として、土木工学等専攻の大学生等を対象に“橋を守る技術”を体験できるデモンストレーション「首都高点検・補修デモ2012」が実施された。このイベントは平成13年度から行われており、今回も例年どおり、実際の作業で使用される機材や車両を用いたリアルな実体験が可能な内容であった。
「安全な道路」を維持し続ける取り組み
警察の調べによると、首都高で1年間に発生する人身事故は1,775件(平成21年)、一方、一般道を含む全国では736,688件(同年)。この数字をもとに、通行台数や走行距離などをかんがみた事故発生の頻度「人身事故率」で両者を表した場合、全国値(一般道を含む)が87.4件/億台キロ(一億台の車が1キロ走った際の事故件数)なのに対し、首都高は22.5件/億台キロと約1/4となる。
こうした数値から見ても、首都高は比較的安全な道路といえるだろう。この背景には、利用客の安全と快適さを追求する「お客様第一」の経営理念のもと、道路の施設損傷に起因する事故防止や、さらなる安全性向上に対する同社の全社的な取り組みがある。
今回のデモも、そうした取り組みのひとつだ。
さまざまな点検が短期&長期の「安心」を守る
デモの担当者によると、橋やトンネルなどの道路構造物に発生した損傷や異常を調査する「構造物点検」は、首都高速道路を維持・管理する上で「一番の起点となる重要な作業」とのこと。おおまかには、高速道路上もしくは高架下からの目視による「徒歩点検」、パトロールカーを利用した車上からの目視・感覚による「巡回点検」、工事用足場や高所作業車などにより構造物に近づいて行う「接近点検」の3つに分類されるそうだ。
こうした点検作業で発見された損傷や異常といった調査結果は、「速やかに補修を行うことで利用客などへの被害を未然に防ぐほか、過酷な使用条件下にある道路の長期的な維持管理計画の策定にも役立てられている」という。
実機、実車を用いたリアルなデモ内容
概要の説明が済んだのち、具体的な作業の開始となった。参加者を6~7人の班に分け、それぞれがA~Gの7ブロックにわかれた点検・補修項目を順次まわる形式で行われた。
まずは「高所作業車(スーパーデッキ)を用いた点検」からスタート。実際の工事、点検、補修等の作業に使用される車両を前に、緊張気味の学生たちは、安全具やヘルメット、軍手などを装備してリフトに搭乗していく。
このリフトの最大積載荷重は1,000kg。大人が十数人、一度に乗ることも可能だ。また、操作性にも優れ、上下左右から斜め方向まで、微細な移動も問題なく行える。ここでは、道路の底面や橋などの高所における点検作業が実施された。
続いて行われたのが「反発度法によるコンクリートの強度点検」。これは「リバウンドハンマー」と呼ばれる測定装置を用いてコンクリートの表面を打撃し、その反発度合い(跳ね返りの高さ)からコンクリートの圧縮強度を推定するというものだ。これにより、コンクリートが耐えられる負荷の強さ(強度)を知ることができる。
「常に測定面に垂直に」「25~50mm間隔に9箇所」などの説明を受けたのち、実際に学生も作業を行ったところ、適正数値となる42N/mm2(1平方センチあたり約400kg)が計測された。
以降も、各ブロックをまわりながら、多くの点検・補修項目に対し、実践的な体験が3時間近くをかけて行われた。
「鉄筋コンクリート内部の鉄筋探査手法」では、コンクリートと鉄筋の材質の違いを利用し、コンクリート表面から内部に電磁波を放射することで、対象物(鉄筋等)からの反射波を画像処理し、位置などを知ることができる。これにより、内部の鉄筋等を傷付けずにコア(サンプル)採取時等が行えるという。
「赤外線サーモグラフィーを用いた点検」では、赤外線カメラにより、高速道路や標識柱といった構造物表面の温度分布を測定することで、コンクリートの浮きや空洞化、内部への滞水などを調査。仕組みとしては、滞水や空洞等が生じた場合に、コンクリート構造物の熱伝導が妨げられることで生じる構造物表面の温度差を利用している。
ほかにも、足場が確保できなかったり、通常の点検では目視不可能な狭いすき間の調査などに使用される「軽量ポールカメラによる点検」や、極端に狭い場所など高所作業車が進入できない箇所の点検に使用される「ビデオスコープによる点検」も実施された。
数々の点検作業を実際に体験できたこともあり、学生からは「内容の濃い、有意義なデモンストレーションでした」との声が多数寄せられた。
同社では、以上のような点検・補修作業はもちろん、さらに路面設備の清掃や積雪時の凍結防止剤・塩水の散布、事故を減らすコミュニケーション活動など、走行に対する安全性・快適性の向上に関するさまざまな維持管理を実施している。
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