東京ビッグサイトで開催された「ワイヤレスジャパン2012」では、さまざまな新製品や新技術が紹介されている。KDDIは、「リンクアグリゲーション無線技術」「HTML5を使った車載インフォテインメント」「NFC×Wi-Fi連携システム」「マルチセンサ対応M2Mクラウド」といった新技術を紹介していた。

リンクアグリゲーション無線技術は、複数の無線ネットワーク技術を組み合わせ、通信速度を向上させる、という技術。3G、無線LAN、LTE、WiMAXといった複数の無線ネットワークがある中で、通常はどれか1つの技術を使って通信を行う。

リンクアグリゲーション無線技術。複数の通信技術を使い、同時にデータをダウンロードすることで通信速度を向上させる

今回の技術では、例えば無線LANと3Gで同時に通信を行えるようになる。1つのコンテンツをダウンロードする場合、2つの通信でダウンロードを行うことで、全体のダウンロード速度を向上させることができる。この場合、高速な無線LANでは全体の7割、低速な3Gでは3割といった形で、速度によって担当する比率が自動的に変わる。この技術を使うことで、3MBのデータをダウンロードした時間を比べると、平均で2.4倍高速になったという。通信が不安定になりがちな電車での移動時でも平均で2.2倍高速になり、全体で2倍以上の高速化が実現できた、としている。

デモでは、専用アプリを使ってデータをダウンロードして行っていた。3Gのみ(左)と3G+WiMAXでの速度比較

速度によってダウンロードするデータ量が異なり、全体で半分程度のスピードで通信が終わっていた

この場合の動作としては、Androidスマートフォンにインストールしたアプリが、3Gと無線LANを同時に使い、2つのIPアドレスでサーバーに接続、分割ダウンロードしたデータをアプリが結合するという形になる。サーバー側には2つの端末からアクセスしているように見え、ネットワーク側にも特に手を入れる必要はないのが特徴で、端末にアプリを入れるだけで恩恵を得られる、というのが特徴だ。

複数の通信を同時に利用できるため、例えば公衆無線LANと3Gでデータをダウンロード中に、無線LANのパケットが流れなくなったとしても、3G側で全データをダウンロードするため、ユーザーにはデータが流れ続けているように見える、というメリットもある。

こうした動作を動的に行うことで、通信の高速性、安定性を向上させることができるのがこの技術だ。

現在は研究開発中の段階で、専用アプリを使ってダウンロードを行う、という形になっている。ただ、これでは専用アプリを使わないと恩恵が得られないため、Proxyのようにサービスとして動作し、通信を中継することでほかのアプリでも利用できるようにする方法も検証しているという。

ただ、アプリごとに通信が異なり、効果を得るための工夫が必要になるため、この技術を組み込んだアプリを作るという方向性もある。大容量データのダウンロードに威力を発揮する反面、ブラウザでテキスト中心のWebサイトを何枚も開くといった場合にはあまり効果がなく、動画のストリーミング配信では利用できないといった問題もあるが、例えばAPIやソースコードを公開することで、アプリをカスタマイズするということも考えているそうだ。

また、今回は、分割ダウンロードをアプリで結合するので、サーバー側の対応は不要だが、アップロードにこの技術を使う場合、サーバー側は分割して送信されたデータを結合しなければならないため、対応が必要になる。そのため、現時点ではダウンロードを高速化する、という位置づけになっている。

高速化としてだけでなく、通信を動的に切り替えて安定化するという効果もあり、今後の展開が期待できる。

「HTML5を使った車載インフォテインメント」は、スマートフォンを車載カーナビとして利用するためのソリューションだ。車にはHTML5対応ブラウザを搭載し、スマートフォンに接続して、スマートフォンの機能を利用する、というもので、カーナビだけでなく、さまざまな機能が使える情報端末に変身する。

HTML5を使った車載インフォテインメント。左のスマートフォン内のサーバーに対し、右のディスプレイがアクセスしている

ナビゲーション機能を利用しているところ

スマートフォン側は、自宅で目的地の情報や楽曲、写真などを保存しておき、車に乗り込んだら、車載機器側でスマートフォンに接続する。この時、車載ブラウザがスマートフォンのサーバーに接続する形で、HTML5のWebアプリを表示する形になる。今回の展示では、無線LANでスマートフォンのIPアドレスを指定して接続する形だが、Wi-Fi Directを使って直接つなぐことも検討しているという。

スマートフォン内の動画コンテンツも再生できる

電話帳にアクセスしているところ

車載ディスプレイは、HTML5のWebアプリをレンダリングして表示し、あとは通常のカーナビのように画面をタッチして操作を行う。スマートフォンより大きな画面のディスプレイで、Webアプリ側のUIをカーナビライクにすれば、カーナビと同様の操作性で、さまざまな機能を利用できる。

カーナビの機能としては、地図はスマートフォンがオンラインから取得して表示したり、地点情報をネット経由で取得することができる。スマートフォン内の音楽再生、電話帳を呼び出しての通話、といった機能も利用できる。

ポイントは、接続するスマートフォンを切り替えるだけで、「自分専用のカーナビ」が可能になる点だ。自家用車を使うのが一人だけ、という環境ならともかく、家族で共有していたり、カーシェアリングやレンタカーで、専用カーナビが利用できない場合でも、自分のスマートフォンを使って各個人にあわせたナビの利用が可能になる。

HTML5で開発したアプリであれば、車載ディスプレイ側が表示できるので、新しいアプリを使えばどんどん機能を向上できる。通信機能はスマートフォンに担当させるほか、CAN(車内ネットワーク)と組み合わせることで、車の情報を取得してナビなどに応用したり、スマートフォンを経由してクラウドサービスで活用したり、といった用途も検討されている、という。

「マルチセンサ対応M2Mクラウド」は、同社のM2Mソリューションとして、今回は「不動産会社向けのセキュリティソリューション」として、報知器やエアコン、見守りサービスなどのセンサを空き家に設置して、外部から状況を監視できるサービスを例に、M2Mサービスを紹介。KDDIはクラウドサービスやゲートウェイを提供し、センサはZigBee対応の製品であれば接続できるようにして、ハードウェアの自由度を確保した。

マルチセンサ対応M2Mクラウド。ZigBee対応センサとクラウドを組み合わせてM2Mサービスを実現する

KDDIでは、3G、WiMAX、無線LAN、CATV、FTTHといったさまざまな通信回線を持ち、車や自動販売機の管理、省エネ管理、健康管理などといったM2Mを検討している。今後、キャリアとして通信回線を生かした事業の展開を図っていく方針だ。

例として展示されていたセンサ群

Webブラウザでセンサの確認、監視ができる

(記事提供: AndroWire編集部)