シャープは6月1日、モバイル端末向けのディスプレイ「IGZO」の新技術を発表した。新技術を利用することでさらにディスプレイが高精細化し、将来的には500ppiという高精細なディスプレイも実現できるという。新技術を採用したディスプレイは、今年度中にも製造される予定だ。
IGZOは、高精細、低消費電力、タッチパネルの反応性の高さといった特徴を備えた方式として、シャープ製の液晶への採用が始まっている。水嶋繁光・副社長執行役員技術担当兼オンリーワン商品・デザイン本部長は、「モバイル液晶分野は年率17%の成長分野」と強調。同社の重要な事業領域として位置づけており、成長にはIGZOによる付加価値が必要という認識を示す。
IGZOには、電流が大きく流せることで、より細い配線で電力供給が可能になり、開口率や透過率が飛躍的に向上する。このため、透過率が同等なら2倍の高精細化、解像度が同じならより大きな透過率を出せる特徴があり、水嶋副社長は「高精細化にとって大きな意味がある」と説明する。
通常のディスプレイは、1/60秒間隔で描画をリフレッシュしており、滑らかな映像表示が可能だが、静止状態でもリフレッシュをするため、電力を消費する。「モバイル機器の消費電力は、ディスプレイが50%以上を占めている」という状況で、IGZOでは、静止状態でのリフレッシュを制御して休止するようになっている。この休止状態で、電流の漏えいも最小限になっており、全体として「1/10に低消費電力化が図れる」という。
また、液晶の電流はタッチパネルに対してはノイズとなり、反応が悪くなる原因となる。IGZOでは、休止状態でそうしたノイズを抑えられるため、SN比が5倍程度良くなるという。そのため、通常は指の皮膚でないと反応しないタッチパネルでも、爪で触れるだけでも反応するようになる。これによって高感度でスムーズなタッチ操作が可能になるとしている。
こうしたIGZOに対応した液晶の製造では、従来のアモルファスシリコンの製造プロセスを大きく変更する必要がないため、既存の工場での対応も容易で、生産性も犠牲にならない。このことからコストの面でも有利だとしている。
こうしたIGZOの特徴を生かしつつ、さらに高精細化を実現する、というのが今回の新技術で、CAAC(C-Axis Aligned Crystal)と呼ばれる新しい結晶構造を発見したことで実現した。より高精細なディスプレイが作れるようになる「大きな革新」と水嶋副社長は説明する。
この新技術を用いて、4種類のディスプレイを試作。液晶ではスマートフォン用の4.9型1280×720ドット(302ppi)と、モバイル機器向けの6.1型2,560×1,600ドット(498ppi)の2種類。有機ELでは13.5型3,840×2,160(326ppi)、3.4型960×540(326ppi)の2種類。有機ELの13.5型は白色OLEDにRGBカラーフィルターを組み合わせたもの、3.4型は折り曲げが可能なフレキシブルタイプになっている。
高精細化の方向は今後もさらに進み、シャープでは500ppiも視野に入れて開発を続ける。現時点では「500ppiよりももう少しあげられる」(水嶋副社長)とのことで、500ppi以上のディスプレイが求められれば、生産も可能との認識を示している。
水嶋副社長はIGZO対応ディスプレイを生産する亀山工場について、今年度中に新技術を投入したIGZOに対応させたい考えを示す。この新しいIGZOを採用した製品について、「来年度までお待たせしたくない」と語り、今年度中に採用製品が登場してくることを示唆する。シャープはディスプレイの製造を行うほか、スマートフォンなどの自社製品も開発しており、最初の採用製品がどの製品になるかは分からないが、早期の採用製品が登場することが期待できそうだ。
なお、有機ELディスプレイに関して水嶋副社長は、「モバイルディスプレイの一分野として重要と理解している」と話し、研究開発は続けているが、有機ELディスプレイの製造に関しては「市場の動向を見たい」と慎重だ。