5月26日、大手町ファーストスクエアカンファレンスにて、「第1回ブルーライト研究会」が開催され、医学分野などの専門家が研究成果を発表。約100人が参加した。ブルーライトとは、波長が380nmから495nmの青色光のこと。目に見える光の中で最もエネルギーが強く、パソコンやスマートフォン、液晶テレビなどのデジタルディスプレイから多く発せられると言われている。
このブルーライトの人体への影響を医学的に検証し、その情報を社会に広く発信することを目的として設立されたのが、同研究会だ。慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授が代表を務め、医学分野の専門家を中心に設立された。
冒頭、坪田教授があいさつに立ち、「最近はスマートフォンや液晶モニターも普及し、一般には『明るい方が良い』と認識されているが、その『明るさ』の中に含まれるブルーライトには、生体リズムをコントロールするさまざまな側面がある。昼間、太陽のもとに浴びる分には、夜寝られるという良い面もあるが、一日中浴びているとリズムが狂ってくる」とブルーライトの基本的な性質について説明。また、同時期にフランスでもブルーライトを研究する機関が設立されたことを紹介し、世界的に注目されているブルーライトを研究する意義を語った。
散乱しやすいブルーライトは眼精疲労を引き起こしやすい
研究会の前半は「セッション」と題して、4名の研究者が登壇。それぞれの研究分野の成果を報告した。
一番目に登壇したのは、南青山アイクリニック副院長の井手武氏。「ブルーライトと眼精疲労について」というテーマでスピーチした。
ブラウン管に比べ、液晶モニターの方がブルーライトを多く発していること、また、スマートフォンの普及なども相まって、現代人はブルーライトを浴びる量が増えていると前置きした上で、青色光は赤色光に比べて散乱しやすく、理論的には眼精疲労や眼疾患を引き起こしやすいと説明した。
また、ブルーライトと眼精疲労との因果関係を明らかにすべく、ブルーライトをカットする保護メガネを用いた実験を実際のオフィスで行ったとのこと。その結果、保護メガネの装着により、眼のストレスは軽減されることが明らかになった。
ただし、保護メガネをずっとかけ続けることによるマイナス面について、実験データが十分でないことや、ブルーライトが仕事の集中力を増すという研究報告もあることにも触れ、今後も継続的に研究を進めていきたいと締めくくった。
続いて登壇したのは、国際医療福祉大学三田病院眼科の綾木雅彦准教授だ。「白内障患者の睡眠とブルーライト」というテーマで、夜間にブルーライトを浴び続けることで睡眠障害になる恐れがあることを説明。さらに、白内障患者の睡眠に関する調査結果などを発表した。
綾木准教授によると、白内障患者には睡眠障害があり、その原因の一つと見られるブルーライトを遮断する眼内レンズの挿入手術により、57%の患者が改善したという。ただし、概日リズム=いわゆる体内時計により認識される一日周期の変動とブルーライトとの関連性については今後さらに研究していく必要があると述べた。
工学、精神神経科分野からも幅広く報告される
三番目に登場したのは、東海大学工学部医用生体工学科の衛藤憲人准教授だ。ここまでの2名が医学的な見地からブルーライトについての研究成果を報告したのに対して、衛藤准教授は工学分野から「ブルーライト個人曝露量測定システムの開発と応用」というテーマでスピーチ。自作の測定器を手に持ち、測定結果を発表した。
屋外で測定した場合は、赤色光や緑色光に比べて青色光の量が最も多くなるのだが、遮へい物などにより日陰のあるところでは、青色光が最も減少の度合いが高い。このことから、ブルーライトをカットするためにヒサシ等が有効ではないかと話した。
そして最後に登壇したのは、杏林大学医学部精神神経科学教室の古賀良彦教授。「ブルーライトと生体リズム」というテーマで、パソコンに向き合う機会が増えた現代人が、夜暗いところで寝る前にブルーライトを見ることが睡眠や健康へ影響するかというテーマで行った調査結果を発表した。
近年の調査では、20代から50代のサラリーマンやOLは、1日平均11時間以上もパソコンモニターやスマートフォンなどの画面を閲覧しており、94%の人が目の疲れを感じると回答しているという。
ブルーライトをカットするメガネを装着した人は、装着しなかった人に比べて睡眠中に目覚めた回数が少ないことが、実験継続3日目以降、はっきりとわかるようになったそうだ。古賀教授は、ブルーライトが目の疲れや体内リズムの乱れを引き起こし、睡眠の量や質にさまざまな影響を及ぼしていると結論づけた。
光は「体内時計」のメカニズムにも影響する
研究会の後半は、「サーカディアンリズムと光」というテーマで、東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻の深田吉孝教授による特別講演を開催。今回はそのなかでも、外的環境の変動に対して同調性を示すという側面、とりわけ光に対しての研究を中心にスピーチが行われた。
冒頭、ヒマワリを定点観測した動画を紹介する深田教授。これを学生に見せると、植物にも体内時計があるのかと感動するそうだ。
「植物から体内時計のメカニズムが発見されたのですけどね」と、普段の講義時のエピソードを交えながら解説した。
サーカディアンリズム(=概日リズム)とは、ほぼすべての生物が持つ計時機構であり、細胞内因のものである。
深田教授によれば、サーカディアンリズムは外的環境が一定であっても、自分自身で時を刻むことができるという「硬さ」と、外的環境の変動に対して同調性を示す「柔らかさ」の両方を兼ね備えたものだそうだ。
具体的には、生物のいわゆる「体内時計」は、1日が25時間だと認識していて乱れることはないこと、朝の太陽光を認識してリセットし、1日24時間の周期に合わせていることが、実験により明らかになっているという。
講演終了後に行われた質疑応答では、「食事とサーカディアンリズムについても聞きたい」という声が挙がった。座長を務めた坪田教授は「次回はそうした食事との関連や、ルテイン(葉緑体や卵黄などに含まれる色素)についても取り上げたい」と提案。記念すべき同研究会の1回目が締めくくられた。
「ブルーライトの研究は眼を守るために非常に重要な分野であり、ブルーライト研究会の意義はこれからますます高まっていくだろう」と、坪田教授。同会では今後も、定期的にセミナーを開催していく方針だ。
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