人材紹介会社ヘイズ・ジャパンは17日、女性が活躍する就業環境と企業が抱える課題について論じるダイバーシティ・セミナーを、六本木ヒルズで開催した。
ダイバーシティ・セミナーの様子 |
女性がキャリアアップするための仕組みが、企業の中に存在しない
ダイバーシティとは、企業が人種や年齢、性別や宗教などにこだわらず、多様な人材を生かし、その能力を発揮させようという、90年代にアメリカで発祥した考え方。
人材紹介会社ヘイズ・ジャパンは、日本でのダイバーシティを広めることによって、女性が活躍する就業環境の拡大を促進している。
同社の代表取締役クリスティーン・ライト氏は、講演の中で、女性がキャリアアップするための仕組みが企業に存在していないことが問題であると述べ、課題解決のためにダイバーシティ推進が重要であると語った。
『現在、女性ワーカーの2人に1人は転職しています。その理由の半数が「今いる会社ではキャリアアップすることが不可能だから」です。 わが社の調査によると、65%の女性たちがキャリアアップのチャンスや昇格、給与面で男性より不利であると感じており、また、実際に66パーセントの企業採用担当者が、女性のキャリアアップのための仕組みが社内に存在しないと語っています。より多くの企業がダイバーシティの重要性を理解し、女性ワーカーの能力を最大限引き出すよう努力することが、課題と言えるでしょう』(ライト氏)
女性の人材を活かすためのワークライフ統合が必要
また、上智大学国際教養学部准教授の大石奈々氏も出席し、「さらなるダイバーシティとワークライフ統合に向けて」というタイトルで講演を行った。
上智大学国際教養学部准教授の大石奈々氏 |
同氏によると、ダイバーシティを推進し女性従業員比率が高い企業は、低い企業と比べて事業収入が多く、市場占有率が高いなど、業績が良いという。これは、女性ならではの多様な経験や視点がイノベーションにつながり、女性に受け入れられるような製品やサービス開発につながるからであるとされる。
しかし、日本においてはまだまだダイバーシティが浸透していないため、70%の女性が出産後退職。女性はキャリアを維持することが困難であり、企業も女性ワーカーという人材を活かしきれていないという現状がある。このような課題を解決するために、大石氏は「ワークライフ統合」を取り入れるべきであると語る。
「ワークライフ統合」とは、仕事と家事育児を、必ずしもきちんと区別する必要がないという観点から生まれた、柔軟な業務スタイルを推進する働き方。オフィスでの短時間勤務と在宅勤務のバランスを自由に選択することができ、例えば同氏は週55~60時間勤務の内、オフィスで25時間、自宅で30~35時間の勤務を行っているという。ダイバーシティ推進の一つの施策として、今後期待が集まるワークスタイルであるといえよう。
また、大石氏自身もワーキングマザーであり、インタビューでは「子育てと仕事の両立は大変だが挑戦し続ける価値はある」と語った。
『子育てで一番うれしいのは、子供の成長です。「お母さんお仕事頑張ってね」というその一言だけで頑張ることができます。毎日必ずうれしいことが起きるんです。仕事においては、大学で関わっている学生たちが一生懸命勉強し、努力して、進学や就職など、自分の希望する道に進むことができる事が何よりの喜びです』(大石氏)
「ダイバーシティは、女性のためだけではなく企業のために行うこと」
セミナーには特定非営利活動法人J-Winの理事長である内永ゆか子氏も出席し、企業がダイバーシティを受け入れることの重要性についての講演を行った。
J-Winは、企業におけるダイバーシティの促進と定着を目的に2007年に設立された団体。企業に対して女性ワーカー活用のコンサルタント、セミナーや講演などを行う。
同団体の内永氏は、ワーカーだけではなく、企業こそが意識改革をしなければならないと語る。
『女性ワーカーがどれほどキャリアアップを目指し、ダイバーシティの意識を持ったところで、彼女たちが働く企業がそれを理解しなければ意味はありません。だからこそ、J-Winは、ワーカーだけでなく企業に対してダイバーシティを促進するのです』
また、女性ワーカーだけではなく、企業にとってもダイバーシティがもたらすメリットは大きく、「性別、宗教、国籍、年齢に関わりなく、さまざまな人材を活用していくことによって企業は自社開発力を高めてゆくことができます。ダイバーシティは、女性のためだけではなく、企業のために行うことなのです」と同氏は語った。
「鬼嫁と呼ばれたこともあったが、仕事と子育ては両立させてきた」
そしてセミナーには、ワーキングマザーの代表として、NTTコミュニケーションズの鈴木照江氏が出席。ダイバーシティがまだまだ浸透していない日本社会で、働く母として乗り越えてきたさまざまな体験談を語った。
NTTコミュニケーションズの鈴木照江氏 |
同氏は、仕事と子育てを両立させるために「週末婚」という選択をしたという。
『平日の間、夫は社宅から会社へ出勤し、私は自分の実家から出勤します。そして当時派遣社員だった妹に仕事をやめてもらい、自分の子供のベビーシッターとして雇い、子育てを手伝ってもらいました』(鈴木氏)
週末婚をしている当時、ある新聞社に取材を受け、「鬼嫁」と記事に書かれたこともあったと同氏は語る。
『子供が父親と週末しか会えないため、この選択が本当に正しいのかと当時は悩みました。しかし、たとえ「鬼嫁」と呼ばれても、家族にとってベストな選択を取ることができたと思っています。週末婚という形をとることによって、仕事を続けつつ、子供に対してきちんと愛情を注ぎ、育児をすることができました』
しかし、会社や子供の学校で、さまざまな困難も経験したという。男性社員がもつ「19時の退社は早い」という意識の差や、昇格することによって失う家事や育児の時間、母親が専業主婦であることを前提としているPTA活動の時間捻出、主婦集団の中での疎外感など、その困難はさまざまであったという。
『なによりも、子供が地域の子たちの輪に入れないということがつらかったです。玄関で子供が涙を浮かべてモジモジしていて、結局遊びに行かずに、庭の隅っこで砂いじりをしていたりしました。友達がなかなかできず、寂しい思いをさせたことに対しては心が痛みました』
以上のような経験を乗り越え、女性ワーカーが活躍する就業環境を整えるために、「社会全体にダイバーシティの浸透が必要」と鈴木氏は語り、「制度確立、運用推進だけではなく、意識改革までしなければならない」と自身の思いを述べ、「仕事と子育ての両立に関して最も大切にしたことは、徹底した自己分析であった」と語った。
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