NTTドコモは5月11日に開催した取締役会において、役員の異動に関して決議したことを発表した。同日、都内では退任する山田隆持代表取締役社長と新任代表取締役候補で、取締役常務執行役員の加藤薫氏が記者会見を行った。本人事は6月19日に開催する定時株主総会および取締役会にて正式に決定される。

登壇する山田社長

登壇する加藤氏

山田社長は4年間を振り返り、自身が力を入れて取り組んだ4点の施策を総括した。1点めは変革とチャレンジの取り組みによる、ユーザー満足度の向上。同氏は社長就任時に現場原点主義を唱え、任期中に訪れた現場は450カ所以上におよんだという。そうしたなか、各現場で「お客様満足度の向上を徹底する意識が現場に浸透している」という実感を抱いたという。このことが「何よりも嬉しいことだった」と振り返った。なお、ドコモではお客様満足度No.1を2年連続で受賞している。

2点めは、スマートフォンの推進とネットワークのインテリジェント化に取り組んだこと。昨年度は882万台のスマートフォンを出荷し、Xiサービスの拡大なども積極的に行った。またネットワークのインテリジェント化については、通訳電話やしゃべってコンシェルなどの斬新なサービスの展開を開始した。山田氏は「ドコモは研究開発力のある会社。今後もイノベーションを推進できると確信している」と力強く述べた。

3点めは「総合サービス企業への進化に向けた取り組み」を開始できたこと。同社が一昨年発表した「2020年ビジョン」や昨年度発表した「中期ビジョン2015」などでは、スマートライフの実現などに向けた取り組みに注目が集まった。山田社長によれば「ドコモが成長していくためには、通信分野以外でも価値を創造していくという意識が必要。それが社員にもかなり浸透してきたと思う」とのことだった。ドコモでは、今年4月にサービスインしたNOTTVに代表されるような「サービスとの融合による新市場の創出」に今後も取り組んでいく考えだ。

4点めは、安心・安全の提供。社長はまず、先に発生したドコモの通信障害に触れ、お詫びの言葉を口にした。その上で、スマートフォン5,000万台の時代にも耐えうるネットワーク基盤の強化を図っていきたいと話した。昨年の大災害に際しては、ネットワークの確保が通信事業者の最大の責務であることを再認識したという。災害当時ドコモでは全社をあげて復旧に取り組み、1カ月後にネットワークを復旧させた。また、震災を受けて策定した「新たな災害対策」も、今年2月にほぼ完了している。

最後に、山田氏は「時代の変化の激しい4年間だったが、今後はさらに変化のスピードが加速する。次期社長候補の加藤は移動体サービスの開発に関わり、モバイル市場の変化を肌で感じてきた人物。持ち前の明るい性格とスピード感で、変化の激しい時代にドコモを引っ張ってくれると確信している」と後任の加藤氏を紹介した。山田社長は取締役相談役に就任予定で、次期社長のサポート役にまわるという。

続いて加藤氏が登壇し、挨拶をした。加藤氏はまず、激しく変化する時代での社長就任となり身が引き締まる思いです、と口にした。同氏は経営企画部長としてお客様満足度の向上や中期ビジョンの策定などに関わってきた人物だ。加藤氏は「現在、通信事業者をとりまく環境はスマートフォンの普及と機能の向上、グローバルレベルでの競争の激化などで大きな転換の時期を迎えている。こうした時代なので、ドコモでは"スピードアンドチャレンジ"を掲げ、お客様に魅力的で使いやすい端末とサービスを提供していきたい。そして、中期ビジョンで発表した"スマートライフの実現"にも全力で取り組んでいきたい」と話した。同氏はこのために大きな3つの指針を示した。

1つめは「スマートフォン時代におけるモバイルサービスの進化」。スマートフォンの特性を活かして楽しく便利なサービスをどんどんと提供していくという。「ドコモならではの研究開発力を活かしたイノベーション、最先端企業とのアライアンスにより、端末とネットワークが連動した魅力的で先進的なサービスをスピーディーに提供していきたい」とのことだった。

2つめは、総合サービス企業への進化の加速。他企業とのアライアンスを積極的に推進し、新たな市場・新たな価値の創造に挑戦していくという。また、海外キャリアへのサービスの提供やプラットフォームの構築にも取り組んでいく。3つめは、新たな挑戦を支える基盤の強化。具体例として、モバイル領域におけるネットワーク基盤の高度化、さらなるお客様満足度の向上、新領域への挑戦に向けた体制の構築と人材の育成などを挙げた。

加藤氏は最後に「人を中心とするサービス、人を中心とする会社を目指して、飽くなき好奇心とへこたれない精神でがんばっていきたい。ドコモグループ一丸となり、スピード感をもって改革にチャレンジしていきたい」と力を込めて語り、挨拶を結んだ。

最後に質疑応答の時間がもうけられた。山田社長は現場主義、顧客満足度を重視するということを指標に掲げた。加藤新社長が最も重視する指標は、という質問に加藤氏は「スピードとチャレンジ。特にスピードが大事だと感じている。昨今、国内・グローバルどちらにおいても革新・進歩が非常に速いスピードで展開している。ドコモとしても時代の流れに迅速に対応していきたい」とした。

企業価値を高めるためにドコモに必要なことは、との問いには「魅力的な端末とサービスでお客様に満足していただくこと。まだまだ努力していかなくてはいけない。また、総合サービス企業として、モバイルを核として色々な業界・産業の人と提携しながら、新しい産業をつくっていきたい。そうしたなかで、ドコモはまだまだ成長できると思っているし、それがドコモの企業価値を高めることと感じている」と答えた。

海外戦略については「インドを中心とするネットワークへの投資に関してはまだ成果が出ていないが、進歩の礎ができ磐石になってきている。あとは市場における成長をどれだけ取り込んでいけるか。中長期的な観点から施策を行っていきたい。一方で、プラットフォームの開発、コンテンツのグローバルな展開も推し進めていく。一定の成果として結実する時期が来たら発表したいと思う」とのことだった。

NTTグループの中でドコモが果たす役割は、という質問には「モバイルの時代なので、コンシューマーサービスについては主体的にドコモが、ネットワークやクラウドについてはグループ全体で取り組んでいきたい」とのこと。

山田社長は「自分がやってきたことで、加藤氏にも引き続いてやってもらいたいことはありますか」という質問に対して「中期ビジョンはドコモが総力をあげてつくったもの。スマートライフの実現に向けてがんばってもらいたい」と答えた。また「お客様満足度の向上、現場を原点とする姿勢などは、ドコモに定着してきていること。引き続いてやってくれると思う」と期待を述べた。

加藤氏には、加藤カラーとしてはじめにやりたい課題などはありますか、という質問があった。加藤氏は、山田社長の時代にやってきたことは情報の共有などもあり熟知しており、経営手法などは継続していきたいとした。その上で、「7分(しちぶ)で良しとせよ、70%で良い」という言葉を紹介。「完璧を求めて時間の概念がなくなるより、例えばサービスに例をとれば、お客様に育てていってもらうような側面があっても良い。もし失敗しても、できるだけ早く直せば良いという考えでいる」と独自の経営理念を語った。

フォトセッションで握手を交わす山田社長と後任の加藤氏