CTIA Wirelessは、米国の携帯電話関連のイベント。5月8日(現地時間)より3日間、米国ルイジアナ州ニューオリンズのErnest N. Morialコンベンションセンターで開催される。主催するCTIAは、米国を中心にした携帯電話の業界団体。もともとは、「Cellular Telephone Industries Association」の略で、1984年に設立された。その後Wireless Data Forumと一緒になり、「Cellular Telecommunications Internet Association」となった。しかし最近では、団体名称として「CTIA - The Wireless Association」を使っているようだ。

今年のCTIA Wirelessは条件が悪かった?

以前より5月の下旬に米国ラスベガス市などで毎年開催されていたイベントだが、3月中旬にバルセロナで行われる携帯電話のイベントMWC(Mobile World Congress)の直後であったことや、米国中心のイベントであったため、海外での注目度はいまいちの部分があった。しかも、今年は、MWCが2月末にずれ、CTIA Wireless自体も5月上旬の開催となって、間がさらに詰まってしまった。そのためなのか、Samsung Electronicsなどの大手端末メーカーやデバイスメーカーの出展が減っている。また、マイクロソフトも今後はプライベートなイベントを中心にすることを表明していたため、やはり参加していない。

周波数割り当てを望む業界

そういうわけで、悪い条件の重なったCTIA Wirelessだが、それでもインテルやQualcomm、HTCなど、半導体、端末メーカーは出展しているし、AT&TやVirizonなどの事業者のブースもある。

米国のイベントのパターンは、「展示」、「コンファレンス」(日本で言うセミナー)と「基調講演」がセットになっている。CTIA Wirelessもやはりこのパターンだ。初日の基調講演では、CTIAのCEOであるSteve Largent氏の講演のあと、FCC議長であるJulius Genachowski氏も登場した。

CTIAのCEOであるSteve Largent氏

FCC議長のJulius Genachowski氏

Largent氏は「Wireless is THE Game Changer」というタイトルで講演を行った。結局のところ、周波数の不足を心配しているようだ。米国では、2007年のiPhone登場以前は、通話が中心で、3Gの普及もいまいちだった。ところが、iPhoneのおかげなのか、データ通信の利用率が急激に上がり、AT&Tなどは帯域不足に陥り、3Gの普及を早めた。また、米国で4Gと呼ばれるLTEとHSPA+もここ2年ぐらいで急速に立ち上がっている。データ通信の比率が上がり、ネットワークを再構築しつつあるのが米国の状況である。ところが、これ以上帯域を増やすためには、新たな周波数の割り当てが必要になる。都市部などでは、セル(Cell。1つの基地局がカバーする範囲)を小さく分割したSmall Cellへと動きつつある。隣接するセルとは周波数を変えねばならないため、新たな周波数の割り当てが必要になってきたわけだ。こうした問題を「Spectrum」と表現する。携帯電話関係でSpectrumといえば、たいていは新しい周波数の割り当てのことだ。それで、Largent氏の結論も「Spectrum、Spectrum、Spectrum」である。なんだか、MicrosoftのBulmerのような感じだが、それほど米国の事業者は新しい周波数の割り当てを要望しているわけだ。

Steve Largent氏の主張は「もっと周波数を」という意味の「Spectrum、Spectrum、Spectrum」

これに対してFCC議長のGenachowski氏の話も、新たな周波数割り当てに触れざるを得ない。もっとも、そういう事情の中、CTIA Wirelessで講演するからには、そのつもりだったのであろう。それによれば、米国では、新たな周波数の割り当てを、またオークションで行う予定だという。オークションとは、一番高値を付けた事業者が周波数の帯域を得るというものだ。日本でも周波数オークションの話は出るもののまだ行われてはいない。また、過去にEU圏で、3Gの周波数割り当てをオーションで行ったが、価格が高騰して、そのために事業者が3Gの設備投資に回す金がなくなったり、結果的に利用者が高い通信料金を支払う必要が出たという評価もある。事業者が負担する費用は、結果的には利用者から回収するしかない。

もう1つのキーワードはSmall Cell

ただ、今回の場合、米国の事業者は新たな周波数割り当てを受けないことには、ユーザーを増やすことも、ユーザーからデータ通信による収益を上げることもできない状態であるわけで、費用対効果の計算は、開始前の3Gサービスよりは行いやすい状況にある。EUの3Gの場合、周波数の割り当てから得られる利益は未知数のままだった。つまり「皮算用」状態でオークションが行われ、実際にはスマートフォンブームが起こるまでは収益を上げにくかったという状況があった。

また、米国では、日本に比べると人口密度が低く、平均的にみると周波数は足りているが、人口の集中する一部の都市部では不足しているという状況がある。前述のようにiPhone登場の2007年以前はデータ通信を利用するユーザーはごくわずかだった。つまり、日本のように人口過密とデータ通信の利用を前提にシステムが選択されていなかったのである。それゆえ、急速に4Gへと移行しつつあるわけだ。

もう1つの施策は、セルを小さく分割するSmall Cellだ。4Gでは、周波数あたりのデータ通信容量を高めることは可能だが、それでも1つのセルに収容できる端末数には限界がある。1つのセルを方角で複数の「セクタ」に分割することで、1つの基地局設備(タワー)でより多くの端末を収容する方法もあるが、こちらは、都市部ではビルなどの影響もあれば、人口密度が方角に対して均質ではない可能性(たとえば野球場のある方向とそうでない方向がありえる)があり、万能の解決策ではない。また、携帯電話で使う周波数の中には、ビルなどの建物内に入りやすい周波数とそうでない周波数がある。これだけスマートフォンユーザーが増えると、建物内での利用も自然と増える。そうなると、建物内の基地局を置くような方向も当然必要になる。会場で話を聞いた感じでは、現在のセルよりも小さな「セル」をSmall Cellと総称し、これが技術的なトレンドなのだという。日本で言うマイクロセルやフェムトセルなどもこの範疇に入るらしい。

「Spectrum」、「Small Cell」の2つがどうも今のアメリカの携帯電話市場の流行のキーワードのようだ。CTIA Wirelessは、アメリカローカルのイベントであるがゆえにアメリカの携帯電話市場が抱える問題を明らかにするイベントでもある。