4月25日、都内にて、ヤンセンファーマ株式会社によるメディアセミナーが開催された。セミナーテーマは、「AD/HD(注意欠陥/多動性障害)とResilience(レジリエンス)」である。
「Resilience」を身につけることで、たくましく生きることができる
AD/HDとは、日常生活に支障をきたす原因となる認知機能障害、また、そうした認知機能障害と関連する不注意・多動性・衝動性といった中核症状を特徴とする生物心理社会的疾患のことだ。
昨今、日本でもAD/HDに対する理解が進んでいるものの、いまだ適切な治療をうけることができていない人が多数いるといわれている。同セミナーは、さらに多くの人にこの病気についての正しい理解を得てもらうことで、そうした状況を改善することを目的として開催されている。
また、Resilience(レジリエンス)とは、「強いストレスからしなやかに回復する力」という意味だ。これは、トラウマなどのPTSD(心的外傷後ストレス障害)を乗り越えた人々の行動特性から導き出された概念で、昨今、心理学会や小児学会からも注目を集めている。
今回のセミナー講師は、ジョージメイソン大学心理学客員教授、ユタ大学医学部臨床学准教授を務めるサム・ゴールドスタイン博士。AD/HDの世界的権威である心理学者である。
博士は、どうすればResilienceを高めることができるのかという疑問について、解説にあたった。
AD/HDを持つ子どもを支えるためには「水泳学習のマインドセット」を持つことが有効
Resilienceを高めるためにはまず、親や教師が、AD/HDを持つ子どもへの理解を深めることが不可欠だという。
AD/HDの子どもが、ほかの子どもと比べて長時間落ち着いてひとつのことをやり遂げることが困難であることを十分に理解した上で、「その子が興味をもてる話題を選び、会話に飽きさせない」などの工夫をしながら、子どもと上手に向き合っていくことが必要だと説明した。
とはいえ、Resilienceを数週間~数か月で身につけることは難しい。そのため、患者本人よりも、それを身につけるための手助けをする立場にある親や教師のほうが、忍耐力を強いられることが多いそうだ。
このストレスを克服するためには、「患者と接するにあたって、水泳学習のマインドセットを応用することが有効」と解説した。
例えば、“ 同世代の子どもが瞬時に習得することなのに、なぜ同じことができないのか?”と考えてしまうと、子どもに対していら立ちを覚えやすい。しかし、人によって習得スピードにばらつきがある水泳学習のようなものだととらえれば、習得に時間がかかることにストレスを感じづらくなるという。
さらに博士は、AD/HDの改善には、薬物療法が大変有効であると説明。その立証ともなる実験結果について話した。
実験は、AD/HDを持つひとりの子どもとほかの子どもたちを一緒に教室で授業を受けさせ、同世代の子どもにどの子がAD/HDかを当ててもらい、さらにその後、AD/HDを持つ子どもに薬を投与し、回答者を入れ替えた上で、同様にどの子がAD/HDかを見極めさせるというもの。
結果は、薬を投与する前後で、正答率が100%から30%に減退した。
今回のセミナーのために初めて来日したという博士は、AD/HDのさらなる支援実現のために、日本にも正しい知識を広めたいとの考えだ。
質疑応答の時間になると、「AD/HDを持つ子どもは、同じような症状を持つ子どもたちが通う学校に通わせたほうがいいのか?」という質問が挙がった。
それに対して博士は、「そうした学校に通わせることが間違っているとはいわないが、子どもにとっては、大人に成長する前に実生活での生活を学ぶ機会を失うことにもなる」と指摘する。
親が「かかわる人を限定しなければならない」という意識を持たないためにも、AD/HDを早期に発見して、正しい医師の診断を受けながら、長期的視野で子どもとかかわっていくことの大切さを訴えた。
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