ユーザーに集中するべき

GoogleのUXチームの大前提(major premise)であり、経営哲学中最優先順位にあるのは‘ユーザーに集中すれば残りは全部解決される(Focus on the user and all else will follow)’という言葉だ。この言葉からはGoogleがGoogleの全体サービスでユーザーをどれくらい重要だと考えているのかを推し量ることができる。実際、Googleのサービスを利用してみると、「ここまでUXを考慮したか」と思うような繊細さを垣間見ることができる(もちろんそうではないサービスもある)。

次の事例は、ユーザーのことを考慮する際に、私たちがいかに重要なものを見落としているかということに気付かせてくれるものである。

韓国でも良く知られているNicholas James Vujicic氏は、生まれた時から腕、脚がないのだが、「自身の人生に限界はない」と話し、全世界に希望を伝える活動を行っている。彼の講演の中では、絶望の中でも立ち上がらなければならない話を情熱を傾けて伝えており、一度聞くと感銘を受ける。もし読者の皆様に時間があるならYouTubeの6分ほどのビデオを見ることをお勧めする。

彼は講演をする時、高い演壇や舞台に上がるのだが、一度、ある学校での講演時に演壇から落ちたことがある。原因は、講演が始まる前に、演壇のつやを出すためにスプレーワックスが塗られていたことだった。テーブル表面が冬季オリンピックのアイスリンクぐらいすべりやすかったという。用心深く一ヶ所をよくこすって、ワックスを落として、そこを踏んで身体を支えてみようとしたが狂いが生じて不覚を取ってしまった。本人は「とても当惑した。結局私は講義をあきらめて、助けを乞うほかなかった。誰かちょっと起こしてもらえませんか?と」と、当時を振り返っている。

Nicholas James Vujicic氏

イベントの運営担当者はどんな情報を持っていたのだろうか? 「遠くから講師が来て、全校生、全教師が参加する場でもあるし、講師がいかなる人かわからないが、誰でもホコリが積もった講壇は好きではないから講壇周辺は最大限すっきりと整理しておかなければならない」という程度だったのかもしれない。誤った情報ではなかったが、ユーザー(講師)が最も必要とする情報を見落としていた。多分、彼の講演をあらかじめ見たり、「机にワックスは塗らないようにしてくれ」という要請を受けたりしていればこのような事故は起こらなかっただろう。担当者がユーザーにもう少し集中していれば結果は違ったはずだ。

企業内プロジェクトを進行する過程でもユーザーに対する情報収集は重要だ。アーキテクトの役割の中で最重要なのは利害関係者(stakeholder)との円滑なコミュニケーションで、相互理解して合意を導き出すことである。

ソフトウェア アーキテクチャーはすべての利害関係者にとって共通の利益をソフトウェア上で実現しようとしている。その観点で分析し、業務改善のための方策を考え、開発のためのソフトウェア設計に注力している。しかし、そのような方法では、ユーザーとコミュニケーションし、その統計的な結論を導き出そうとしているに過ぎない。UXアーキテクトならばユーザーから得られる要求事項にあることが全部ではないということは経験を通じて知っているだろう。

UXPに適用できる方法論はすでに長い期間をかけ、様々な分野で議論され、定義されてきた。こうした、経験を使う技術と統合されたガイドで提供できるならば、ビジネスの目標に合うUX戦略を樹立することができるし、対象に合うプロセスを選択してユーザーが真に願うものが何かを引き出すことができる。 Googleの素晴らしいところは「ユーザーに集中しろ」との厳しい難題に常に向き合っていることだ。まさに"UXP内でユーザーに集中すれば残りは全部解決される"ということだ。