今春スタートの連ドラも、ほぼ初回放送が終了。「似たようなものばかりで、どれがおもしろいのかわからない」。そんな人のために、ドラマ評論家の木村隆志が「視聴率や俳優の人気は一切無視!」のガチでオススメ作品を探っていきます。
今クールは、新年度のスタートということもあって、各局とも「確実に視聴率を稼ぎたい」という思惑がハッキリ。その結果、脚本や演出のコンセプトがかぶり、【1】事件の謎説き【2】ジャニーズ主演【3】旬の脚本家【4】オリジナル作品【5】純粋or変人の主人公 の傾向が表れた。
傾向1
事件の謎説きは7作。密室、検証、都市伝説、サヴァン症候群など、各局は独自色を出そうと必死だが、殺人事件ばかり見ていてもつらいので、本当によい作品を選びたいところ。刑事ドラマの第一人者・櫻井武晴が脚本を手がける『ATARU』が、切り口と演出のチャレンジでも一歩抜きん出ている。
※『鍵のかかった部屋』、『Answer』、『新・おみやさん』、『都市伝説の女』、『三毛猫ホームズの推理』、『ATARU』
傾向2
ジャニーズ主演ドラマは5作。しかも草彅剛、錦戸亮、大野智という演技力と視聴率を併せ持つトップクラスがそろった。早くも大野智の防犯オタクキャラに「ハマリ役」の声が出ているが、さらに作り込んでいければ映画化も。ただ、安心して見られるのは草彅剛か。
※『鍵のかかった部屋』(大野智)、『37歳で医者になった僕』(草彅剛)、『パパドル!』(錦戸亮)、『三毛猫ホームズの推理』(相葉雅紀)、『ATARU』(中居正広)
傾向3 <旬の脚本家>
『セカンドバージン』の大石静、『鈴木先生』の古沢良太、『任侠ヘルパー』の古家和尚、『相棒』の櫻井武晴、『絶対零度』の酒井雅秋ら話題作の人気作家が、しのぎを削る。なかでも、『ALWAYS』『キサラギ』『探偵はBARにいる』など、映画界で受賞を重ねる古沢良太は、ハズレなしの連戦連勝。今回もまちがいはないはず。
※『リーガル・ハイ』(古沢良太)、『37歳で医者になった僕』(古谷和尚)、『クレオパトラな女たち』(大石静)、『ATARU』(櫻井武晴)、『家族のうた』(酒井雅秋)
傾向4.
ストーリーの展開や結末がわからず、飽きられにくいのがオリジナル作品の強み。さらに、原作がないため、現場の空気や視聴者の反応を踏まえた路線変更もしやすく、爆発力を秘める。『家政婦のミタ』に追いつき追い越すのなら、やはり同じオリジナル作品。
※『リーガル・ハイ』、『Answer』、『クレオパトラな女たち』、『カエルの王女さま』、『都市伝説の女』、『もう一度君に、プロポーズ』、『ATARU』、『家族のうた』
傾向5.
防犯オタクの大野智、人格破綻弁護士の堺雅人、高飛車な元ミュージカルスターの天海祐希、都市伝説オタクの長澤まさみ、サヴァン症候群の中居正広、カンちがいミュージシャンのオダギリジョーと、変人キャラは多種多彩で、そのなりきり度や演技力を比較するのも楽しい。もし変人キャラに疲れたら、草彅剛、佐藤隆太、錦戸亮、竹野内豊、相葉雅紀の純粋キャラで癒しを。
※変人キャラ登場のドラマ——『鍵のかかった部屋』『リーガル・ハイ』『カエルの王女さま』『都市伝説の女』『ATARU』『家族のうた』
※純粋キャラ―—『37歳で医者になった僕』『クレオパトラな女たち』『パパドル!』『もう一度君に、プロポーズ』『三毛猫ホームズの推理』
これらの傾向を踏まえたオススメは、堺雅人の演技が神がかっている『リーガル・ハイ』と、FBIの陰がチラつき展開の読めない『ATARU』。特に『リーガル・ハイ』は、「お金を払ってでも観たい」と思えるクオリティで、名作の予感も。
逆に、裏オススメは、「子どもが苦手で家族モノを断り続けてきた」オダジョーの『家族のうた』と、錦戸+子どものセットが見飽きた感のある『パパドル!』。ともにクライマックスは、歌で家族愛を訴えるシーンになりそうだが、そこまで見られる人は相当なファンかもしれない。
以下は、各作品のひと言コメントと採点(☆☆☆=満点)
作品名・放映日時・放送局 | 出演者 | 寸評&採点 |
---|---|---|
『ハンチョウ』 月曜20時~ TBS系 |
佐々木蔵之介・比嘉愛未・小澤征悦 | シリーズ5作目で所轄から本庁へ異動。それに伴いメンバーが小澤征悦、福士誠治、比嘉愛未に変わり、春らしいフレッシュな印象に。軸の佐々木がブレないため、違和感はゼロ。 【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】 |
『鍵のかかった部屋』 月曜21時~ フジテレビ系 |
大野智・戸田恵梨香・佐藤浩市 | 「月9に密室トリック」「レギュラー俳優は3人のみ」という大バクチ作。マニアックな内容で主人公が変人なのに脱力感がないため、やや見疲れる。大野のキャラ確変があれば……。 【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆☆】 |
『リーガル・ハイ』 火曜21時~ フジテレビ系 |
堺雅人・新垣結衣・生瀬勝久 | 初回から即映画化できそうなハイクオリティ。物語の説明をしながら一切飽きさせない脚本とキャストの演技、変幻自在のカメラワークは圧巻で、誰もが楽しめるエンタメ作品に。 【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】 |
『37歳で医者になった僕』 火曜22時~ フジテレビ系 |
草なぎ剛・水川あさみ・ミムラ | 現状、よくある大学病院のドラマで、主人公はわがままなだけ。ただ、『僕シリーズ』『任侠ヘルパー』も最初はそうだっただけに、視聴者のハートを揺さぶる名作になる可能性も。 【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】 |
『Answer』 水曜21時~ テレビ朝日系 |
観月ありさ・田辺誠一・片岡鶴太郎 | 『相棒』『臨場』で成功した“男の刑事ドラマ”枠に観月ありさを起用。初回は違和感を覚えたが、冤罪を防ぐための検証という切り口には期待できる。強力な共演陣にも期待。 【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】 |
『クレオパトラな女たち』 水曜22時~ |
佐藤隆太・稲森いずみ・北乃きい | 堅物の男性医師、整形した女医と看護師たち、多額の借金、同性愛など、ご都合主義の設定てんこ盛りで、感情移入できず。整形を助長しないためのエンドロールもあからさま。 【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
『新・おみやさん』 木曜20時~ テレ日朝日系 |
渡瀬恒彦・京野ことみ・戸田恵子 | 10周年を迎えリニューアル。初回は『京都地検の女』の名取裕子がゲスト出演する豪華版だったが、コンビ役が櫻井敦子から京野ことみに変わっただけであまり変化はなかった。 【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】 |
『パパドル!』 木曜21時 TBS系 |
錦戸亮・優香・川島海荷 | 名ドラマ『ママはアイドル!』のリメイク。テーマに驚きがないため、ジャニーズの裏事情やタブーにふれるくらいの遊びが欲しい。コラボと言いつつ、番宣が多いのはストレス。 【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
『Wの悲劇』 木曜21時 テレビ朝日系 |
武井咲・桐谷健太・福田沙紀 | 武井咲主演が令嬢と売春嬢の2役に挑戦。人生を入れ替える設定のため、実質1人4役の超難役だが、10代とは思えぬ抑えた演技を披露。踊る剛力彩芽、性悪の福田沙紀、怪しい寺田農など脇も見どころたっぷり。 【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】 |
『カエルの王女さま』 木曜22時~ フジテレビ系 |
天海祐希・石田ゆり子・大島優子 | 難しいとされるミュージカル風ドラマに挑戦。合併危機の町にコーラス? という無理な設定もドラマに入り込めない理由に。ただ、天海の躍動感は健在! というか、一人浮いている。 【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】 |
『もう一度君に、プロポーズ』 金曜22時~ TBS系 |
竹野内豊・和久井映見・山本裕典 | 使い古されたテーマだが、ひたむきな主人公と苦悩するヒロイン、嫉妬の横やりを入れる弟と同僚など、80年代の王道ラブストーリーをほうふつさせる。金妻世代は大満足かも。 【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】 |
『都市伝説の女』 金曜23時15時~ テレビ朝日系 |
長澤まさみ・溝端淳平・竹中直人 | “都市伝説+オタク”というコメディに、ミスマッチな“謎説き+美脚”を加えたちゃんぽん作。『トリック』『時効警察』の完成度には程遠いが、徐々に仕上がればシリーズ化も。 【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】 |
『三毛猫ホームズの推理』 土曜21時~ 日本テレビ系 |
相葉雅紀・藤木直人・大倉忠義 | 原作ファンよりジャニーズファンを優先させたキャスティングで、視聴者が迷子に。脚本家・大宮エリーのゆるネタも決まらず、マツコ・デラックスはスベらせているだけの気が。 【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
『未来日記』 土曜23時10分~ フジテレビ系 |
岡田将生・剛力彩芽・本郷奏多 | 初回の内容があまりに理解不能。誰になぜ狙われているのか、ヒントもないままひたすら逃げる主人公に共感できず。「岡田と剛力彩芽にキスさせちゃえ!」的な演出にも不安が残る。 【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
『ATARU』 日曜21時~ TBS系 |
中居正広・北村一輝・栗山千明 | 事件モノの第一人者・櫻井武晴の脚本に、「実は演技派」の中居がフィット。サヴァン症候群で特殊能力を秘めたチョコザイ(中居)が警察には解決できなかった事件の真相を解明していく。映像にもチャレンジが見られ、意外に飽きない。設定の意外性や笑いもあって好スタートを切った。 【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】 |
『家族のうた』 日曜21時~ フジテレビ系 |
オダギリジョー・ユースケ・サンタマリア・貫地谷しほり | 盗作疑惑でケチをつけられ、急きょ設定を変えたからか、主役と子どものつながりが希薄に。もはや子役のセット売りは食傷気味で、繰り返し流れるオダジョーの歌も興ざめ。 【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
※追記:『Wの悲劇』(テレビ朝日系)の寸評を掲載しました(5/13)
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品をチェックする重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。