3月7日にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、「PlayStation Suite(以下、PS Suite)」の開発環境である「PlayStation Suite SDK」を今年後半から提供開始することを明らかにした。まずは4月から「オープンベータ版」をリリースする。これによって、PS Suiteのゲーム環境が充実することが期待されている。
PS Suiteは、ソニーのゲーム機であるPlayStationのコンテンツを、PS以外でも楽しめるようにするプラットフォームという位置づけで、まずは当初Android向けに提供。携帯型ゲーム機の「PlayStation Vita」でも利用可能になっている。要は、仮想マシンをAndroid/Vita上に構築し、その上でPSのコンテンツを動作させるという考え方だ。
このPS Suiteに対応する端末は、Android端末としては、国内モデルとしてXperia arc/acro/PLAY/ acro HD/NX、Sony Tablet P/S、そしてPS Vitaだ。このPS Suiteの動作が、SCEによって確認されたものには「PlayStation Certified」の認証がつけられる。現時点では、事実上ソニーグループ内のみが対応しているが、もともとはオープンに進めていく戦略であり、他社のAndroid端末でも、認証自体は取れることになっている。
PlayStation Certifiedは端末側のオープン戦略だが、コンテンツ側のオープン戦略を実現するのが、今回のPS Suite SDKだ。現在、PS Suiteでは、初代PlayStationのゲームの一部が公開され、ダウンロードして遊べるようになっている。しかし、初代ゲームの場合、画面上に仮想コントローラーが現れて操作する形であり、スマートフォンなどのタッチパネルを生かしたゲームではない。また、コンテンツの数も限られている。
これに対して、PS Suite SDKで新たなゲーム開発が行えることで、タッチパネルを生かしたり、スマートフォンのスペックを生かしたり、これまでとは違う新しいゲームが生み出せるようになる。
iOSやAndroidの普及も、この「ゲーム」による部分はあって、特に海外では本格的な3Dゲームや、端末をコントローラー代わりに、ジャイロセンサーを使ってゲームを操作するといったスタイルのゲームも人気だ。
初代PSは、やはりゲームとしては旧作になり、ゲームの質はともかく、グラフィックや操作性など、ひっくるめてゲーム性がやはり古いわけで、最近のトレンドが盛り込まれているわけではない。ゲームにはやはりそうした要素も必要で、PS Suiteではその点が弱かった。
今回のSDKが登場したことで、PS VitaやAndroid端末で動作するゲームを、多くの開発者が作れるようになったことがポイントだ。もちろん、これまでAndroid向けのゲームを開発してきたベンダーにとっては、新たな開発リソースが必要にはなる。
しかし、Android端末だけでなく、PS Vitaへのゲーム提供が可能になるのは大きいだろう。ソニーの携帯ゲーム機は、世界中にユーザーがいる。それに加えて、まだ対応端末は多くはないとはいえ、PS Certifiedを通過したAndroid端末もカバーできる。また、将来的にはPS3にも対応を予定していて、これが実現すれば、1つのゲームがAndroid、Vita、そしてPS3で動作する、ということになる。
ポイントは、開発者としてこれまでのゲームメーカーだけがターゲットではない、という点だ。PS Suite SDKは、年99ドルを支払い、所定の手続きを行えば個人でもPS Storeでゲームを配信できる。
専用ゲーム機へのゲーム制作は難しいと考えていたような個人でも、iOSやAndroidデバイスならより手軽にゲームを制作・配信できるようになった。しかも収益化できている例も頻出しており、それがほかの開発者も呼び込み……という好循環ができている。
この好循環を呼び込もうというのがPS Suite SDKだ。PS Suite SDKでは、Androidはもとより、携帯ゲーム機のVita、家庭用ゲーム機のPS3にまでゲームを配信できるようになり、ビジネスチャンスが広がり、開発者にとっての魅力はさらに高まる。
これまでのPS Suiteは、あくまできっかけだ。初代PSのゲーム配信に続き、この開発者へのオープン戦略がPS Suiteの本文だ。その意味では、ようやくスタート地点にたつと言ってもいいかもしれない。PS Suiteのオープン戦略は、端末(プラットフォーム)のオープンと、コンテンツのオープンが両輪となって初めて生きてくる。
4月のベータ版では、まだ動作検証の段階で、今年後半の正式版の登場から配信が始まる。このSDKの登場によって、PS Suiteがどのように発展していくのか。開発者がどれだけSDKを利用してPS Suiteに参入するか、そしてSCEがどれだけ支援していけるか、今後の展開を注目したい。
(記事提供: AndroWire編集部)