言葉としてはすっかり世間に浸透した感のある「BL(ボーイズラブ)」ですが、しかしやはりBLといえば女性が読むもの。男には縁のない世界……そんな風に思っている男性も多いでしょう。僕もちょっと前まではそんな風に考えていた時期がありました。

しかしながら、実は男性にもお勧めできるBL漫画はけっこうたくさんあるのです。たとえばコメディとかSFとか。男性同士の恋愛にいまひとつ感情移入できなくても、単純にお話として面白い作品なら問題なく読めるのではないかと思います。

ということで今回は電子貸本「Renta!」より、男性でも抵抗なく読めるBL漫画をご紹介しましょう。

ちんつぶ

『ちんつぶ』(実業之日本社刊)

という冒頭の文章の後で何なのですが、この『ちんつぶ』はかなり読む人を選ぶ作品かもしれません。しかし、これだけは断言できます。「ちんつぶ」はBL漫画、いや、漫画界全体においてもトップクラスに位置するギャグ漫画だと!

で、この「ちんつぶ」、まず設定からして色々とおかしいです。

高校2年生の取手は、同級生の綾瀬に片思い中。ところが修学旅行中に交通事故に遭ってしまい、取手は意識不明の重体になってしまいます。「綾瀬にまだ何も言ってない。死んでたまるか…」――そんな取手の思いが奇跡を起こし、取手は綾瀬のチ○コに乗り移って復活するのでした。

……いかがでしょうか、この怒濤の急展開。ちなみにここまでで4ページです。

正直、この冒頭を読んで「作者は天才だな」と思いましたね。交通事故に巻き込まれて死にかけて(あるいは死んで)、好きな人にしか見えない幽霊になってドタバタ劇――みたいな作品はいっぱいあると思いますが、そこで「好きな人のチ○コになって復活」という発想は並の人間には思いつかないし、よしんば思いついたとしても実際に描けないですよ!

それをやり遂げただけでも『ちんつぶ』は偉大ですが、さらにその後も安定して面白いのがさらにすごい。取手・綾瀬以外にも神谷と岩淵という主要キャラがいるのですが、彼らに至ってはお互いのチ○コが入れ替わって、しかもそれぞれが相手の人格を持って喋りますからね。場面によっては神谷、岩淵、そしてそれぞれのチ○コという4人(?)の掛け合いが繰り広げられるわけですよ。本作はドラマCDも出ているのですが、原作を読まずに聴いたら何が何だかわからないですよもう。

そんな奇跡のような発想から生まれた「ちんつぶ」、そこそこハードな濡れ場もあるのですが、何しろ内容が内容なので男性でもきっと抵抗なく読めるんじゃないかと思います。 ちなみに皆さん薄々は感づいておられると思いますが、「ちんつぶ」とは「ち○このつぶやき」の略称です。もうほんと、色々天才すぎる。

アイツの大本命

『アイツの大本命』(リブレ出版刊)

『ちんつぶ』のインパクトが凄まじかったので皆さんお腹いっぱいかと思いますが、続いては軽いタッチで読める学園ラブコメの大ヒット作をご紹介します。

『アイツの大本命』は、チビでツリ目、見た目に良いところなしの吉田と、校内一のモテ男・佐藤の二人が織り成す青春ラブストーリー。イケメン同士の恋愛も絵になるので悪くないのですが、ルックス面でいまいち感情移入しにくいので、個人的には本作のような見た目的なギャップがある組み合わせの方がしっくりきますね。

さらに本作は吉田が佐藤のことを好きなのではなく、佐藤が吉田に夢中という構図が面白い。そうなると恋愛の立場的には吉田の方が上……なのかと思いきや、佐藤はドSなので、戸惑う吉田を翻弄しまくるわけです。このあたりの複雑な関係性はまさにBLの真骨頂! テンポの良さはさすが人気シリーズだけのことはあり、ラブコメとして非常に完成された作品ではないかと思います。BLというジャンルはさておき、学園ものでラブコメが好きな方なら、ぜひ読んでいただきたい作品です。

SEX PISTOLS

『SEX PISTOLS』(リブレ出版刊)

ジャンルとしてはSF恋愛漫画……とでも形容すればいいのでしょうか。とにかく作り込まれた設定に感嘆した作品です。

周囲の人間がときどき動物に見える――普通の高校生から突然「斑類」に目覚めてしまったノリ夫。そんな彼の前に現れたのは、傲慢きわまりない野獣系の男・斑目国政。「斑類」とは何なのか? そして国政に「俺がお前を孕ませる」と迫られたノリ夫の運命は――。

ということで「斑類」という架空の種族を主題にした物語なのですが、この設定が非常に細かく作り込まれていて、単純にSFとしても面白いと思える作品なのです。

簡単に言うと「斑類」とは、人類の祖先がサルからヒトへ進化する途中で、別のほ乳類や爬虫類の遺伝子が覚醒したヒトのこと。そしてノリ夫はその斑類の遺伝子を持って生まれ、ある日"先祖返り"してしまったというわけ。

さらに斑類には力の大きさによって軽種、中間種、重種という3種類があり……って、これ以上はとても説明できないので、あとは作品をご覧ください。

こう書くとやたら設定が複雑に思えるかもしれませんが、読み進めていくうちにいつの間にか読者に理解させてしまうテンポの良さ、ストーリーの巧さはお見事。BLというよりも生物学系のSFが好きな方にお勧めですよ。