30周年目を迎えるATOKは推測変換エンジンを搭載
我々日本人がコンピューターで日本語入力を行う際に欠かせないのが、日本語のインプットメソッド=日本語入力システムである。Windows OSが世に登場して以来、様々な日本語インプットメソッドが発売され、その幅をMS-DOSまで広げると幾多の日本語インプットメソッドが世の中を席けんしてきた。それらのなかでも長い歴史を持ち、現在でも第一線で活躍しているのがジャストシステムのATOKシリーズである。
その歴史かなり古い。資料によると特定企業向けの日本語インプットメソッドとして基盤となるシステムを開発したのが1981年の話。翌年にはCP/M-80(Intel 8080用のOS)に同ソフトウェアを移植している。これがATOKの前身となるKTIS(Kana-kanji Transfer Input System)だ。現在のATOKに名称を変更したのは、PC-9801版「jX-WORD太郎(一太郎の前身)」が発売された1985年である。
KTISから数えて30年目を迎える最新のATOKは、Windows OSだけでなくMac OS XやiOS(iPhone)、Androidなど様々な環境で同一の文字入力環境を実現してきた。そして最新版となる「ATOK 2012」では、多様化する日本語への取り組み強化とユーザーインターフェースの再構築を目標に、真新しいATOKに生まれ変わっている。
ATOK 2012の新機能を大別すると注目ポイントは三つに分かれる。一つ目は「AS(Advanced Suggest)エンジン」という新しい推測変換テクノロジーの搭載だ。長い歴史を持つATOKは、その時代ごとにユーザーの利便性を高めるため、多数のショートカットキーを用意してきた。現在でも[F7]キーや[Ctrl]+[I]キーで入力文字をカタカナに変換することは可能である。だが、これらのショートカットキーの存在は、利便性の向上と同時にユーザースキルを求めることになってしまうため、スマートフォン環境との差異が生まれてしまう。このアンビバレントな状態に対する同社の回答がASエンジンなのだ。
同エンジンは推測変換に用いられるもので、端的に述べれば入力時に推測候補を示すというものだ。百聞は一見にしかずということで図01~02をご覧になって欲しい。「けいきど」と入力するだけで、「景気動向」「景気動向指数」が推測候補として表示されている。このように入力文字に対して変換するであろう候補を先に提示する機能だ。ここで[Shift]+[Enter]キーを押せば先頭の単語が確定され、[Tab]キーを押せば変換候補の選択が可能になる(図01~03)。
推測変換機能の適用範囲は多岐にわたる。後述する校正支援機能の強化もさることながら、確定直後の文字列にも適用されるのは面白いアイディアだ。例えば「東京都」と入力した場合、過去の入力履歴に加えて「千代田区」などユーザーが入力するであろう語句が列挙されるため、ユーザーの入力ステップは大幅に低下し、文書作成がはかどるのは述べるまでもない(図04~06)。
携帯電話やスマートフォンでは一般的な推測変換機能で、前バージョンであるATOK 2011にも搭載されていた。だが、ATOK 2012では一般的な単語やフレーズ、固有名詞など数多くの語彙(ごい)を収集し、ATOK監修委員会(辞書の監修を行う第三者機関)の手による品質チェックを経て、使用頻度の高い推測変換を実現しているのだろう。