米国の2大携帯キャリアである米AT&Tと米Verizon Wirelessの2011年第4四半期(10-12月期)決算が1月26日(現地時間)に出揃った。どちらも多数の新規顧客を獲得したほか、多くの既存ユーザーがよりARPUの高いスマートフォンへと移行するなど、売上ベースで過去最高クラスの業績を達成している。一方でスマートフォン、特にiPhoneを2年契約で割引販売する際のコスト負担が重くのしかかり、どちらも数十億ドル規模の巨額損失を計上するなど、ユーザー数の増加とは裏腹に利益を圧迫する現象に見舞われている。
両社の決算を具体的に見ていこう。米AT&Tの同四半期の売上は325億ドルで前年同期比で3.6%のアップ、純利益(損失)は67億ドルの赤字だった。AT&Tが巨額赤字を計上した理由の1つは、先月同社が発表したT-Mobile USAの買収断念で、この破談にかかる諸経費が収益を圧迫したことにある。1株当たりの利益(EPS)で1.12ドルの赤字のうち、約半分にあたる65セントがこのT-Mobile関連で計上した損失となる。
だが赤字とは対照的に携帯電話ビジネスの状況は好調で、同四半期のスマートフォン販売台数は940万台で過去最高となり、これは直前の2011年第3四半期から50%以上の急増となる。また、同期に結ばれたポストペイド契約のうちの82%がスマートフォンによるもので、米国でスマートフォンユーザーが急増していることを示すものとなった。さらにiPhoneの契約数は760万で、こちらも過去最高である。興味深いのは940万のスマートフォン契約のうち、760万がiPhoneという点で、実にAT&Tにおける新規スマートフォン契約の81%がiPhoneユーザーだ。
またAT&Tによれば、同四半期における新規ポストペイド契約ユーザーの数は71万7,000だったという。だがライバルのVerizon Wirelessは同時期に120万の新規ユーザーを獲得しており、契約数ベースでの両社の差がさらに開く結果となった。現在AT&Tの契約ユーザーは合計で1億320万、Verizon Wirelessの契約ユーザーは合計で1億870万と僅差で競っている。本来であればAT&TはT-Mobileの買収で頭1つ抜け、合計1億3,000万以上のユーザーを抱える全米最大のキャリアになる目論見だった。だが米政府らが買収阻止に向けた動きを強めたため断念した経緯がある。AT&TではT-Mobile買収で周波数帯を獲得し、逼迫するネットワーク事情を改善する狙いがあったといわれる。だが現状はユーザーだけが一方的に増えるなかで、どのように至急のネットワーク問題と向き合っていくかが課題となる。
一方のVerizonをみていくと、地上回線を含むVerizon Communications全体の同四半期の売上は284億ドルで、このうちのワイヤレス事業の売上が183億ドルとなる。つまりVerizon Wireless単体としては13%のアップとなる。一方で同四半期の純利益(損失)は20億2,000万ドルの巨額赤字となり、26億4,000万ドルの黒字だった前年同期と比べても対照的な結果だ。
Verizonによれば、この赤字は年金負担のほか、iPhoneをはじめとするスマートフォンの販売推奨金の支払い負担が利益を圧迫した結果だという。米国に限らず、昨今のスマートフォンは携帯キャリアが端末メーカーからデバイスを購入し、それを2年契約等の条件をつけて顧客に割引販売する形態が一般的になっている。例えばiPhoneのケースでは、Appleから携帯キャリアへ最新のiPhone端末が卸される際の価格は600ドル程度だとされているが、実際にユーザーに販売される際は2年契約縛りで199ドルとなっており、その差額は携帯キャリアが負担することになる。これを2年間の契約の中で通話料から少しずつ回収していくというわけだ。そのため、新規ユーザーや機種変更ユーザーが増えれば増えるほど、携帯キャリアの負担が急増する。ユーザーが増えれば増えるほどコストが嵩んで赤字が増えるという不思議な現象だ。
だが一時的に赤字にはなっても、将来的には増えたユーザーは通話料収入でキャリアを潤す源泉となるわけで、今後ARPUの高いスマートフォンユーザーが増加することはキャリアにとって大きなメリットだ。従来型のフィーチャーフォンなどの一般携帯電話と異なり、スマートフォンでは多くのユーザーが高額の大容量データ通信プランを選択する傾向がある。そのため、フィーチャーフォンのみのケースと比較して金額にして10数ドル、比率にして1-2割ほど月あたりの平均収入(ARPU)の上昇がみられる。AT&Tの例でいえば、同四半期におけるARPUは63.76ドルで、前年同期比1.4%のアップとなる。ライバルのVerizon Wirelessの同四半期のARPUは54.80ドルで、前年同期比2.5%アップだったという。
AT&Tでは競合に比べて6ドルほどARPUが高い傾向があると説明しているが、この理由の1つはデータ通信を消費する傾向の強いiPhoneユーザーの比率が高いことにあるとみられる。Mashableによれば、同四半期におけるAT&TのiPhone契約数が760万だったのに対し、Verizon Wirelessでは420万にとどまっていたという。後発のハンデがあるとはいえ、この差は依然として大きい。またAT&Tでは新規または契約を更新したユーザーの多くがiPhone 4Sを選択しており、iPhoneにユーザーが集中している傾向が強くみられる。
高ARPUによる高い収益性を携帯キャリアにもたらす一方で、その販売コスト負担がキャリアの業績を圧迫するなど、二律背反な状況をもたらすiPhoneを筆頭とするスマートフォン端末。将来的には高収益を約束するものだと考えられるが、当面は熾烈な販売合戦を経て携帯キャリアの業績や体力を削っていく諸刃の剣といえるかもしれない。