CES 2012のプレスディに催された米Intelの記者会見で、同社副社長 兼 PCクライアント事業本部長のMooly Eden氏が、昨年ローンチしたモバイルPCの新カテゴリ、「Ultrabook」の展望をメインにプレゼンを行った。Ultrabookの登場でモバイルコンピューティングがどのような変貌を遂げたのか、また、次期プロセッサ「Ivy Bridge」の登場でそこに如何様な進化が見込まれているのか、さらに、Windows 8も見据えた次世代モバイルコンピューティングのハードウェアコンセプト、「NIKISKI」端末の実働デモの披露などがトピックだ。

日本のPCユーザーにもおなじみのMooly Eden(ムーリー・エデン)氏。例年の同氏講演の傾向から、次期プロセッサであるIvy Bridgeの詳細が聞けるかと思ったが、今回はUltrabookの話題がメインだった。それだけIntelがUltrabookの立ち上げに注力しているということだろう

今年はUltrabookの普及期、モバイルのスペックは"インチ"から"ミリ"へ

Ultrabookは現状、一部の製品を除けば、各社からリリースされる製品の価格帯はおおよそ1,000ドルをやや上回るあたりに設定されており、どちらかと言えばユーザーもアーリーアダプタやハイエンド層が多くなっている。主にUltrabookの薄型軽量という要素が、ノートPCにとって"プレミアム"な要素になっているからと考えられるが、しかしながら、これはIntelの目標とするUltrabookの位置づけとは少し異なっていたようだ。

現在、そのサイズを"インチ"で表記されることの多いメインストリーム・ノートを、Ultrabookによって、より薄さを表現できる「"ミリ"表記へと変えて行きたい」(Eden氏)と語る言葉に象徴されるように、IntelではUltrabookを、スペシャルな製品ではなく、あくまでも、現在の"メインストリーム"のノートPCを置き換える存在として据えている。

メインストリームノートのサイズ表現を"インチ"から"ミリ"へ

Eden氏によれば置き換えに必要な最大のポイントは価格で、Intelでは、現在の1,000ドルをやや超えている価格帯から、当初同社が提唱していた999ドル以下へ、また今年はそこからさらに低い価格帯もターゲットとした、"メインストリーム"のユーザーが入手しやすいUltrabook製品の登場を促す施策をとるとしている。その施策のひとつの実現例が、Intelが昨年設立した「Ultrabook Fund」であると紹介された。同ファンドによって、Intelの出資金を得たメーカーがより理想に近いUltrabookを開発、市場投入できるようになるというものだ。そういった施策が進むことで、今年は、価格面でUltrabookの入手性が昨年よりも向上する可能性が高いだろう。

3億ドルの基金を設立。Ultrabookの開発を支援する

Ivy BridgeはDX11もドライブ、多大なプロセッサパワーでUIの変革も

次期主力プロセッサ「Ivy Bridge」への言及では、具体的な話としては、主にグラフィックス部分の強化についての情報が公開された。とは言え情報量は少なく、まずは統合グラフィックスがDirectX 11をサポートすること、そしてパフォーマンス自体も32nm世代に比べ大きく強化されているということが紹介されている。

Ivy Bridgeのブロックダイアグラム

グラフィックスパフォーマンスが大幅向上する

DX11にも対応。高負荷3Dゲーム「F1 2011」がUltrabookで楽しめるというライブデモ

関連して興味深かったのが、22nmのIvy Bridgeの登場に絡めて、プロセッサのコンピューティングパワーが大きく向上して行くことで、ユーザーインタフェース(UI)に変革がもたらされる余地が生まれているという話だ。Ultrabookの様な薄型軽量なモバイルPCも、次世代ではIvy Bridgeを採用する計画だ。

UltrabookのIvy Bridge搭載計画

Eden氏はUIの変革の例として、Ultrabookのテスト環境を用い、Webカメラで撮影した利用者の手の動きなどの映像をリアルタイムに解析処理することで、アプリケーションの操作が可能なジェスチャーUIのデモンストレーションを披露した。処理能力の余力が、既存のキーボードとマウスを想定したUIを変えてしまうかもしれないという可能性を感じるデモだったと言える。また、Windows 8を見据えたUIとして、タッチパネルを標準装備したUltrabookでのタッチ操作や、加速度センサや音声認識処理機能などを備えたUltrabookでのアプリケーション操作などのデモなども披露している。

ジェスチャーUIのデモ。手でボールをひっぱり、放す動きをすることで、画面内のボールが勢いを付けて飛んでいくというもの

これは本体内蔵センサの傾きで、画面内の飛行機のロールや機首アップ/ダウンをコントロールするデモ

COMPUTEXで公開の「NIKISKI」、今回は実働試作機でより具体的に

Windows 8との関連、またUIの変革というステージの流れの中では、同社のモバイルコンセプト「NIKISKI」の話題も登場した。これは、昨年のCOMPUTEX TAIPEIで初めて公開されたIntelの次世代モバイルコンセプトのひとつだが、今回のCESではもう少し現実感が増し、実働機でWindows 8を動作させるという試作機が披露されている。

NIKISKIは、通常のノートパソコンでパームレストにあたる部分一面に透明なタッチパネルを備えており、ノートパソコンとして利用しているときは、その部分はタッチパッドの役割を担う。ディスプレイを閉じた際には、その透明部分から本体ディスプレイの画面上部が覗いて見えるようになっており、またタッチパッド裏側もタッチ操作を受け付けるため、閉じたままでも画面上をタッチ操作することができるというものだ。

NIKISKIの試作機。これはディスプレイを開いている状態

ディスプレイを閉じても、解像度が透明部分の範囲に最適化された表示が透過閲覧でき、そのままタッチ操作できる

デモでは、Windows 8のMetro UIのアプリケーションタイルが、ディスプレイを閉じた状態では、この透明部分から見えるディスプレイ範囲に最適化して整列表示され、ディスプレイが開いている時と同様の使い勝手で利用できるという利用スタイルが紹介された。ブラウザなどを立ち上げると、Webページの画面もNIKISKIの透明部分に最適化された解像度に整形されるので、変な見難さは無い。また、ディスプレイを閉じた状態から、ディスプレイを開いてノートPC状にすれば、透明部分に最適化されていた画面表示も、自動でフルスクリーンに切り替わる、という動作も実現していた。

筆者は、過去にWindows Vistaの新機能として少しだけ注目された「SideShow」(参考: CES 2007でレポートしたSideShow関連の記事へのリンク)を思い出した。これの進化版と捉えるとわかりやすいだろうか、NIKISKIのギミックも、メール確認やちょっとした情報表示に便利なものとして紹介されていた。