Barnes & NobleのNook Tablet |
急拡大を続けていた米国の大手書店チェーンが岐路に差し掛かっている。米Barnes & Nobleは1月5日(現地時間)、現在同社が展開している電子書籍ビジネス「Nook」の事業分離を模索していることを発表した。Nookは同社にとって急成長事業である一方で、立ち上げ期のコスト負担の問題を抱えている。米国書店チェーン最大手の将来の生き残りをかけた選択はどのような結果をもたらすのだろうか。
2000年代前半まではライバルのBordersとともに全米に急激に店舗展開を行っていたBarnes & Nobleだが、採算性の悪化により拠点統合が進みつつあり、最終的に破綻したBordersの一部店舗や事業を受け継ぐ形でリテール事業を維持しており、現在に至る。この背景にはオンラインストアの米Amazon.comの攻勢があり、顧客争奪戦で既存の書店チェーンが不利に立たされたこともあるとみられる。また、ここ数年はAmazon.comのKindleに代表される電子書籍の利用が急拡大しており、こうした新技術が紙の書籍の売上に影響を及ぼした可能性も考えられるだろう。Barnes & Nobleは小売店舗事業だけでなく、これまでにもオンライン事業に力を入れているほか、最近では「Nook」と呼ばれる電子書籍端末と、それに提供される電子書籍コンテンツの拡充を行っており、Amazon.comならびにKindleへの対抗を強めている。今回のBarnes & NobleのNook事業分離も、こうした情勢の変化が背景にある。
Barnes & Nobleが5日に発表した同社会計年度で2012年度の決算ガイダンスによれば、大学キャンパス等で展開しているBarnes & Noble Collegeを含む既存の書店事業の見通しはほぼ横ばい。一方でNookを含むオンライン事業のBN.comが40-50%の増加見込みとしている。BN.comでの紙の書籍販売は減少しているものの、急成長中の電子書籍コンテンツ売上は伸びており、相対的に電子書籍の占める比率が高くなっている。つまり、同社の成長要素は電子書籍事業に集約されているといえる。一方でNOOK Simple Touchの売上減少や、Nook事業への継続投資、さらに販売地域拡大に向けた広告費用等が重石となり、同年度の最終的な損失(EPS/LPS)は当初予想よりも高い1株あたり1.40ドルから1.10ドルの水準を見込んでいるという。こうした報告を受け、5日の同社株は取引終了時点で11.24ドルと前日比17%の急落を見せている。
損失が急拡大したことで、同社は株主らからのプレッシャーが強まっている。成長の余地がないながら比較的安定した収入を得ている既存の書店事業と、急成長が見込めるが初期投資負担が大きい電子書籍事業の両立が難しくなっていることが、今回の事業分離判断へとつながっている。Barnes & Nobleとしては今後縮小が見込まれる既存の書店事業から電子書籍事業へのシフトを模索して継続投資を行っているものの、投資家視点からみて許容範囲を超えつつあるのがその理由だ。Nookの最大のライバルはKindleであり、その競合のためにマーケティング費用や端末販売負担が大きくなるためだ。そのため、Barnes & Nobleは高コスト事業であるNookの売却を模索しなければならない状態に追い込まれつつある。最終的に2つの組織に事業分離するのか、あるいは潜在的な事業買収者が現れて事業を売却するのか、そう遠くない時期に改めて発表が行われることになるだろう。またWall Street Journalによれば、同社は出版事業であるSterling Publishing(2003年に買収)の売却も模索しており、赤字拡大から事業整理を積極的に進めつつある。
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