Windows Updateの導入はユーザーのメンテナンスコストを大幅に低減させ、現在では多くのソフトウェアが導入している。しかし、コンピューターの再起動は相変わらず面倒な作業であり、修正プログラムの適用率を下げる原因になっているのも事実。Microsoftは、この点に対していくつかの改良を加えることを公式ブログで説明した。今週も公式ブログに掲載された情報を元に、Windows 8(開発コード名)の情報をお送りする。

メンテナンスコストを抑えるWindows Updateの存在

Windows OSが初めて自動更新機能を備えたのは、Windows 98の時代までさかのぼる。計画自体はWindows 95の時代に主たるネットワークとして設置されたパソコン通信サービス「MSN」だったが、時流はインターネットへ傾き始め、MSN経由の修正プログラム配布ではなく、インターネット経由のWindows Updateに置き換わることとなった。

そもそもパッチ(Patch)やHotfixなどと呼ばれる修正プログラムの配布形態は、様々な手法が用いられてきた。古くは郵便に代表されるメディアの物理的運送や大型量販店によるメディアの店頭配布、コンピューター雑誌の付録などもある。その一方で前述のパソコン通信サービスや、インターネット経由といった電子的配布方法も用いられてきた。結果は現在のとおり、インターネット配布に集約されている。

更新されたデバイスドライバーやソフトウェアの修正プログラムの収集は現在でも面倒な作業だが、ユーザーがインターネット上を探し回る必要もなく、自動的に更新情報を取得するWindows Updateの存在が、メンテナンスコストの削減に大きく寄与した面はもっと評価されてもいいだろう。

蛇足だが、当時夜も昼も切れ目なくPCゲームを楽しんでいた筆者だったが、海外産PCゲームはアップデートファイルをインターネット経由で配布していた。そのため、バグフィックスも簡単に行われ快適なプレイ環境を得ることができた。しかし国内の某メーカーは、その頃でも物理的運送しか手段を用意せず、実に面倒だったことを今でも覚えている。

さて、Windows Updateは前述のとおり有益な機能だが、その一方で問題となるがコンピューターの再起動である。Windows 9x時代はリソース消費問題があったため、修正プログラムとは関係なく、OSを安定動作させるために定期的な再起動が必要だった。Windows XPの時代になると、ユーザーの手による再起動回数は減ったものの、度重なるセキュリティホールの発見と、それに対応するための修正プログラムの配布により、OSを再起動しなければならない回数は体感的に同じである。

もちろん修正プログラムの適用は、システムファイルを入れ替えることになるため、更新されたモジュールを読み直さなくてはならない。一部のOSには動的にモジュールを読み替える機能が存在するものの、Windows OSにはシステムファイルと呼ばれるモジュール群に同機能を適用するロジックは持ち合わせていないのが現状だ。

修正プログラムの配布タイミングを変更

Microsoftもこの点を問題視し、Windows 8ではWindows Updateに関するいくつかの改良が施される予定である。一つめは配布タイミングの改善。現在同社はセキュリティに関連する修正プログラムを“月例のセキュリティ更新プログラム”として配布中だ。

同社は配布タイミングを毎月第二火曜日(日本は時差の関係で水曜日)に定めているが、Windows OSの再起動を必要とする修正プログラムの配布タイミングを合わせることで、ユーザーは月に一回しかコンピューターを再起動しなくて済むようにスケジュールを変更する予定だ。もちろん緊急性の高い修正プログラムは、これらのスケジュールに縛られず、即座に配布すると言う。

もう一つの改良点が再起動をうながす通知の見直し。現在のWindows 7は修正プログラムが適用されると、コンピューターの再起動をうながすメッセージが表示される。既定値では15分後に自動再起動するものの、ドロップダウンリストから最大四時間まで延長することが可能だ。レジストリ編集やローカルグループポリシーを変更することで、再起動までのカウントダウンを抑制することもできる(図01~02)。

図01 Windows 7では、修正プログラム適用にコンピューターが自動的に再起動する

図02 レジストリなどから設定を変更することで、自動再起動を抑制することもできる

Windows 8では、修正プログラムの適用後にすべてのユーザーに更新された旨を通知し、三日間の猶予を設けるようになった。ログオン画面にはコンピューターの再起動をうながすメッセージを表示するようになり、電源ボタンのメニュー項目はWindows 7と同じく変化する(図03~06)。

図03 修正プログラム適用後、ログオン画面に三日間通知される(画像は公式ブログより)

図04 電源ボタンからは「アップデート&再起動」、

「アップデート&シャットダウン」といった操作が行える(画像は公式ブログより)

図05 三日間のカウントダウンを経て、コンピューターの強制再起動処理が始まる(画像は公式ブログより)

図06 再起動後はメッセージも消え、電源ボタンのメニュー構成も元に戻る(画像は公式ブログより)

気になるのは、前述した再起動をうながすポップアップダイアログの存在だが、公式ブログの説明を読む限り、言及されていない。ただ、ユーザーが文書作成や動画の視聴など作業を邪魔しないような通知システムに変更すると書かれていることから、バルーンなどの通知ロジックは残される可能性が高い。

本来Windows Updateにおける強制再起動は、修正プログラムを適用せずにセキュリティホールを放置するユーザー、システム管理者が多かった背景から生まれたものだ。2004年頃に大流行したSasser(サッサー)というワーム型ウイルスの存在も大きい。

しかし、頻繁にコンピューターの再起動を求められることで、利便性が著しく低下するのは言うまでもない。安定動作し、スリープや休止状態の使用を推奨されているWindows 7ユーザーは特に感じるだろう。この強制再起動は、セキュリティリスクを優先するか、ユーザビリティを優先するかのトレードオフの関係にあり、同社も悩みあぐねたはずだ。そこで、誰しもが目にするログオン画面での強調表示と、三日間という長い猶予期間という回答に至ったのだろう。

また、企業などファイアウォールに囲まれた環境でWindows 8を使用する場合を想定し、システム管理者の設定で自動再起動を抑制する仕組みも用意されている。この際ログオン画面に表示されるメッセージは、コンピューターの再起動が行われるまで表示され続けるため、自己の責任において再起動タイミングを選択できるのはWindows 7と同じだ(図07)。

図07 強制再起動を無効にするポリシー設定も用意されている(画像は公式ブログより)

劇的な変更ではないものの日常的に使用するOSだけに、こういったかゆいところに手の届く改善は歓迎したい。エクスプローラーのリボンUIやMetroスタイルに対する評価は意見が大きく分かれる部分だが、全体的な改善情報を眺めていると、Windows 8はもしかして期待してもよいOSになるような気がしてきた。

阿久津良和(Cactus