11月16日より18日までの間、千葉の幕張メッセで、音響や映像、通信関連機器の総合展示会「Inter BEE 2011」が行われている。Inter BEEで扱われるのは、基本的にはプロユーザー向けの機材やアプリケーションがメインで、一般ユーザーに直接関係してくる展示は限られている。しかし全体を見渡すことで、今後の放送や映像などの世界がどういった方向に向かっていくのかを、おぼろげながらも予想することができるわけだ。
昨年行われたInter BEE 2010は、「地デジバブル」の真っ最中だったこともあり、異様な盛り上がりを見せたイベントだった。なかでも多くのスペースを割いて展示が行われていたのが3D関連機器だった。それまでの年は放送のデジタル化に向けた展示がメインだったのだが、昨年は放送局や制作会社のデジタル化にとりあえずの目処が立ったことで、その次のターゲットして3Dを推進していたといったところだろう。筆者も何かの記事で「3D元年」といったことを書いた記憶がある。
さて、今年のInter BEEは昨年とは大きく様変わりし、3D関連の展示は大幅に減少している。もちろん、各ブースの一部には3D関連の展示がないわけではないが、メインとはなっていない。これは、3Dが既に普及してしまったということが理由なのではないだろう。民生機器での3D機能は、BDレコーダー/プレーヤーに関しては、エントリークラス以外の製品ではほぼ標準装備となっている。テレビに関しても、ミドルクラス以上のモデルでは3D対応、あるいは3D レディ(トランスミッターや3Dグラスを用意すれば3D映像に対応できる)のモデルが高い比率を占めている。一方でコンテンツはというと、「スカパー!HD」などで新しい動きもあるが、総数はそれほど多いわけではない。現時点で「Amazon.jp」で販売されているブルーレイ3Dのコンテンツは200本程度だ。3Dは失速してしまったのか。それは筆者には判断できないが、現時点で、3D対応だからというだけでその映像機器やコンテンツの魅力が大幅に増すかというと、そんなことはないだろう。
3Dに代わって今年のInter BEEで目立っていたのが、「4K」や「8K」といった次世代の映像フォーマットに関する展示だ(目立っていたといっても、昨年の3Dのように会場全体がというわけではないが)。現在のハイビジョン放送の画素数は、ご存じのように1,920×1,080(地デジは1,440×1,080)だ。それに対して4Kでは、縦横がその約2倍、8Kでは縦横がさらに約2倍の画素数になる。画素数の比でいうと、8Kは現在のハイビジョンの16倍程度ということになる。表示機器の問題だけでなく、信号の伝送や記録、再生に関しても、より進んだ技術が必要となるわけだ。4Kに関しては、技術的に既に実用の段階だと言ってもよいだろう。
東芝が12月に発売予定の液晶テレビ「レグザ55X3」が、4K対応のパネルを搭載。ハイビジョン信号を、超解像技術により4K相当に補間して表示させることが可能だ。また、オプションの4倍画素QFHD映像入力アダプター「THD-MBA1」を利用することで、4Kの映像を直接表示することも可能となる。コンテンツに関しては、PS3のタイトルで既に4Kに対応しているものがある。また、BDに4K映像を入れるための仕組みについても、現在話し合われている最中らしい。こういったことが後押しになり、パッケージコンテンツを中心に4K解像度のタイトル(映像作品)がいくつか登場してくる可能性は少なくない。ただし、現時点で4Kを表示できる唯一の液晶テレビである55X3の価格が90万円前後と予想されており、やはりそれほど多くの台数が見込まれる製品ではない。他の選択肢、例えばプロジェクターにしても、それがひとつの市場を形成できるほどの台数になるかというと、やはり難しいだろう。
8Kに関しては現在、NHKで開発が進められている「スーパーハイビジョン」が中心となっている。2020年をめどに8Kでの試験放送の開始を目指しているのだが、これはまだ先の技術だ。現在の時点で、我々のような一般ユーザーがテレビを選択する際に、気にかける必要はない。
KDDIブースで行われている、インターネット衛星「きずな」によるスーパーハイビジョン信号の伝送実験。独自のコーデックにより、24Gbpsのオリジナルデータを70Mbpsにまで圧縮している |
アストロデザインのブースでは、24Gbpsのスーパーハイビジョンの録画再生が可能なSSDレコーダーや、8Kのシアターなどを出展 |
それ以外では、映像サーバーや、制作関連の展示がメインで、ここ1~2年のInter BEEの浮かれ具合からすると、平常運転に戻った感じだ。