また、企業別の売り上げと成長率を比較してみると大きく順位が異なっているのも特徴である。逆説的だが、こうした超高速化するマーケットに対応するために、最初の3つの開発のトレンドが必要とも言える。

Photo16:これはまぁ当たり前の話で、元々の売り上げが少ないほど成長率は高くなる訳だが、ただこうした急速な成長率を実現するためにも開発のトレンドを掴んでおく必要がある

こうしたトレンドに対するMathWorksの優先課題として示されたのが

  • 計算処理能力とアクセス
  • システム開発向けのモデルベースデザイン
  • 複数の領域における学習と実践
  • 大規模な共同作業

といった事柄である。まず計算能力やアクセスだが、GPUへの対応やクラウドコンピューティングに加え、MATLAB Mobileが新たに追加された(Photo17)。

Photo17:GPUへの対応などは昨年すでに実現しており、またクラウドとの接続も同じParallel Computing Toolboxで可能だった。この対象をMobile Deviceにまで広げたのが大きな特徴である

ついでシステム開発だが、従来型の開発プロセスのままだとシステム全体の開発は難しいことになる(Photo18)。

Photo18:この話そのものは別に珍しくないことで、要するにこうしたコンサバティブな開発からモデルベースの開発にシフトしましょう、という話である

例えばPhoto19は自動車のトランスミッションの実装であるが、どういうギアの構成にして、どうギアチェンジを行うのがパフォーマンスと燃費の両方に最適化されるか、というのはこれまでだと実装しないと判らない部分であった。

Photo19:右側がシミュレータで、ここでさまざまなモデルを組み合わせてシミュレーションを行うことで、最適なギアとシフトパターンをあらかじめ検証してから実装にかかるという話

モデルベース開発の場合、実装の前にこれを検証するということが出来る。ここまでの話は一般的なモデルベース開発の手法であるが、今回の目玉はSystem Toolbox(Photo20)とMATLAB Coder(Photo21)が新たに提供されたことで、これによりシステム開発をモデルベースで行いやすくなったとしている。先ほどPhoto10で示したデモもやはりMATLABで記述したもので、こうした携帯電話のようなものまでMATLABでの実装対象になった訳だ(Photo22)。

Photo20:システム開発にしばしば必要とされるToolboxが新たに追加されたことで、新規にこうしたアルゴリズムを実装する必要性がなくなった点が大きい

Photo21:従来からサポートされてきたASIC/FPGAなどに加え、Embedded Processorへのインプリメントとか他のソフトウェアとの組み合わせも可能になった

Photo22:ただこれはサンプルということなのかもしれないが、iPhone/iPod Touchの開発はObjective-Cがメインな訳で、これとどうリンクさせるのかはちょっと基調講演では不明だった

また自動車業界向けにはAUTOSAR RPPを提供する(Photo23)ほか、(やや4番目の項目にも絡んでくるが)自動的なコード検証の仕組み(Photo24)や、TUV認証への対応(Photo25)なども行われていることが紹介された。

Photo23:自動車業界向けシステムの開発はAUTOSARに準拠した形にするのが、特に欧州では必然になりつつある訳で、こうした流れに沿ったものとなる

Photo24:これは昨年発表されたもの。ソースコードに特定のランタイムエラーが無いことを証明する、コード検証ツール。これらもAUTOSARその他の開発環境で必要とされる

Photo25:ISO26262は言うまでもなく自動車向けの機能安全に関する規格。最近はこちらへの準拠も必須とされる

3つ目であるが、先ほどの「複数の分野にわたるエンジニアリング」と絡む話であるが、昨今は「T字型のエンジニア」であることが求められる。ここで氏が上げた一例はロボット。20年前と今では全く環境が異なっており、では最近の大学生は? というと自動車を改造したロボットコンテストなどに参加しているわけで、より高レベルの幅広い範囲の知識が必要になる。こうした分野に向けてMathWorksはMATLAB Central(Photo28)とMATLAB Answers(Photo29)を開設して、学習や実践への手助けを行っている、と説明された。

Photo26:まぁ奥深い知識が一分野でいいのか? という議論はあるのだが、最低一分野には詳しく、かつ幅広い分野の一通りの知識が必要というのはかつてから言われていた事

Photo27:LEGO Mindstorms NXT恐るべし、というべきか

Photo28:MATLAB Centralは以前から同社が開設している、いわばMATLABのポータルみたいなもの

Photo29:MATLAB Centralの下に今年開設されたMATLAB Answers。Amazon askvilleに似た雰囲気であった

最後が、グローバルエンジニアリングに対応した大規模共同作業への対応である。これについて、Simulinkを外部のリビジョン管理ツールと組み合わせる、という形で実現させられることを説明した(Photo30)。

Photo30:一例として、たとえばGMにおけるモデルベース開発では、数百人のエンジニアによって開発が行われ、6週ごとにリリースを行い、それをさらに多くの人々が利用しているという事例が紹介された。こうした事は、適切な分散管理機構無しでは不可能だろう

また、いきなり最初から大規模システムを目指すのではなく、小規模なPOC(Proof of Concept)から段階を踏んで規模を拡大してゆくことが重要であると説明、最後に締めくくりとして、再び最近の3つの開発のトレンドと超高速化する市場、それに向けたMathWorksの4つの取り組みを再確認して、氏の講演は終わった。

Photo31:ここでは4段階に分けてのケースで説明を行った